研究実績の概要 |
隣接基関与は、カチオン中心に隣接基に含まれるヘテロ原子の孤立電子対から電子が供与され一過的な結合を形成し、反応生成物の立体化学や反応速度など反応経路を変化させる現象で、炭素カチオンおよび等価体において多くの例が知られている。一方、炭素カチオン以外のカチオン種への隣接基関与の研究はほとんど例がなく、我々のグループがテトラロンオキシム誘導体から生じるイミニウム型窒素カチオンに対する隣接基関与の存在を初めて示した。すなわち、通常、酸性条件下、anti転位(Beckmann転位)を起こすオキシムにおいて、8位ペリ位に塩素原子があると, syn転位、すなわちオキシムN-O(Ts)結合と同じ側にあるC-C結合がN上に転位した生成物2が、anti転位生成物3とともに生成してくることを示した。このsyn転位(アルキル転位)はペリ位塩素原子の窒素イミニウムカチオンへの隣接基関与によって生成する一過的な結合を含む中間体が生成し、この中間体において、一過的なCl-N結合に対してアンチの位置にあるC-C結合がN上に転位したと考えられた。一方で、隣接基関与で生じたオニウムカチオンは、別の並列するヘテロ原子の孤立電子対と相互作用することも可能であり、そのような隣接基の二次的な相互作用(タンデムな隣接基関与)が立体選択性に影響を及ぼす可能性があることが想像できる。そのような現象を観測した例は私達の調べた限りでは報告されていない。今回テトラロン誘導体を用いて、並列した隣接基が窒素カチオンと相互作用して、反応経路にどのような影響を与えるか調査した。結果的に7位の置換基の存在は骨格転位の位置選択性に大きな効果を及ぼすことが判明した。
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