研究実績の概要 |
前年度までに,γ-ブロモ-α,β,γ,δ-不飽和アシルシランに相関移動触媒としてシンコナアルカロイド由来の四級アンモニウム塩存在下,二層系溶媒中KCNを反応させると,アシルシランへのシアニドイオンの付加/Brook転位/1, 4-脱離反応を経て2-シアノ-2-シロキシビニルアレンが最大エナンチオマー比79:21で得られることを報告した.本年度は,本反応の立体過程を完全に明らかにするために,シアニドイオンが付加した後にBrook転位が起こる前にプロトン化されたシリルアルコールの単離を検討した.種々条件を検討したが,本基質から生成するシリルアルコールを単離することはできなかった.そこで,脱離基を持たない種々のアシルシランにおいてシリルアルコールが単離できるかどうかを検討した.その結果,ほとんどの場合,Brook転位が起こった後のO-シリルシアノヒドリン誘導体が生成したが,無水条件下,3-(benzyloxy)-1-(tert-butyldimethylsilyl)propan-1-oneを基質として用いた場合にラセミ体ではあるが,シリルアルコールが得られることが明らかになった.さらにこのシリルアルコールを水酸化ナトリウム水溶液で処理すると瞬時にO-シリルシアノヒドリンとなることも確認した.今後,キラルカラムにより単離した片方のエナンチオマーと,これを原料にして得られたO-シリルシアノヒドリンの絶対構造を決定することにより,反応の立体過程を明らかにすることが可能である.また,その過程において,アシルシランを二層系溶媒中キラルな臭化アンモニウム誘導体とKCNで処理することにより,光学活性なO-シリルシアノヒドリン誘導体が得られるという興味深い知見が得られたのであわせて検討した.この時,隣接位に三重結合を有すると,三重結合の末端でプロトン化されたアレンが得られることも明らかになった.
|