炎症性腸疾患に対する核酸医薬による治療システムの開発を念頭に、消化管内での核酸の分解と、炎症性腸疾患の標的となる消化管下部への効率的送達の問題を解決する方法として、申請者らが独自に開発した「自己ゲル化核酸」技術を利用してキトサン被覆DNAマイクロゲル製剤の開発を試みた。平成27年度には、DNAハイドロゲルの粘膜面への投与の可能性を検証するために、炎症性腸疾患に有効と報告のあるToll-like receptor 9(TLR9)のリガンドの一種であり、代表的なフォスホロチオエート化CpGオリゴヌクレオチド(ODN)であるCpG1668を選択し、これを構造中に含むDNAハイドロゲルを開発した。平成28年度は、CpG1668結合DNAハイドロゲルの粘膜への作用を簡便に評価するため、マウス膣内に投与した。その結果、CpG1668単独と比較して、CpG1668結合DNAハイドロゲルは高いサイトカイン産生、単純ヘルペスウイルス2型の増殖抑制作用を示した。このことから、CpG1668をDNAハイドロゲルに結合させることで、粘膜免疫のさらなる活性化が示唆された。そこで、CpG1668結合DNAハイドロゲルをキトサンで被覆することで、消化管内における核酸医薬の安定化ならびに消化管粘膜への吸着による消化管内滞留化を試みた。DNAハイドロゲルをマイクロスフェア化し、その表面をキトサンで被覆することでキトサン被覆DNAマイクロゲル製剤を開発した。キトサンの被覆により、酸性条件下およびDNA分解酵素存在下におけるDNAハイドロゲルの安定性は顕著に増大した。また、蛍光標識デキストランの消化管内移動は、キトサン被覆DNAマイクロゲルに内包することで有意に遅延した。以上、本研究で開発したキトサン被覆DNAマイクロゲル製剤は、炎症性腸疾患に対する核酸医薬による治療システムの開発につながる可能性が示された。
|