研究課題
本研究は解熱鎮痛薬アセトアミノフェンをモデル材料として、経時安定性に優れた準安定形Ⅱ形の晶出技術の開発を目的としている。これまで報告してきた超音波印加によるⅡ形結晶は、単結晶では経時安定性に優れるが、粉末状態では加速試験条件で安定形のⅠ形に転移することが課題であった。Ⅱ形晶出が高過飽和溶液内で結晶化していたため、転移の起点となる溶液インクルージョンなどの結晶欠陥を含んでいると考え、低過飽和溶液中でⅡ形結晶を作製するための新技術開発に取り組んだ。1.超音波印加で得た微結晶を含む少量の飽和溶液を作製し、別途用意した低過飽和溶液に微結晶を滴下(シーディング)し、徐冷法を使って準安定形の結晶化を試みた。この手法により低速成長が実現し、透明で高品質な結晶作製に成功した。粉末にした試料の加速劣化試験を実施したところ、超音波印加法で得られた種子結晶よりも経時安定性が大きく向上していることが明らかになった。2.報告してきた水溶媒と比べて高い溶解性を持つメタノールに着目し、超音波印加法を用いて低過飽和溶液中からのⅡ形晶出を試みた。晶出条件を調査した結果、水溶媒では困難であった低過飽和溶液から、高確率でⅡ形結晶が晶出することが明らかになった。また、上記と同様、低速成長が実現しているため経時安定性が大きく向上していることも確認できた。3.アセトアミノフェンの過飽和水溶液に特定のポリマー材を入れることで、界面からⅡ形よりも準安定な三水和物を晶出させることに成功した。この三水和物が晶出して飽和状態となった溶液に、超音波印加法で出られた微結晶を含む少量の飽和溶液を滴下すると、溶媒媒介相転移を通してⅡ形結晶が成長することが明らかになった。本手法は準安定形の成長速度が制御でき、大容量溶液にも展開できることを確認しており、準安定形を作製する新たな製剤化技術に展開できると期待している。
2: おおむね順調に進展している
申請時には超音波印加によってアセトアミノフェンの準安定形結晶を高確率で選択晶出できることを明らかにしていたが、粉末状に粉砕した微結晶の加速条件下での経時安定性は十分とは言えない状況であった。初年度はこの課題に対して3つの新しいアプローチを試み、それぞれで優れた経時安定性を実証することができた。いずれも準安定形を低速成長させ、結晶を高品質化させるという共通概念で一致しており、本研究を通して準安定形結晶化プロセスにおける重要なキーパラメータが明確化し、経時安定性が制御できるという重要な知見が得られた。また、それぞれが準安定形を結晶成長させる技術として独創性に富んでおり、特に3つ目の溶媒媒介転移を介した結晶成長は新しい試みとなっている。次年度は、他の薬剤候補化合物への横展開と、創薬試験を試みたい。
1.種子結晶滴下と徐冷法を用いた準安定形晶出技術については、アセトアミノフェンでは溶媒種・濃度と冷却速度をパラメータとして研究を継続する他、アスピリンやイブプロフェンといった他の薬剤候補化合物への展開を検討する。最初は超音波印加を使って準安定形の晶出条件を探索し、析出に成功した後は、徐冷法と組み合わせて結晶の高品質化(経時安定性向上)を目指す。また、アスピリン、イブプロフェンの準安定結晶が再現良く得られた場合、共同研究先企業と協力して錠剤を進め、薬剤としての優位性を明らかにしていく。2.新規薬剤候補化合物のアスピリン、イブプロフェンに対して超音波印加による準安定形結晶化を進める。アセトアミノフェン、インドメタシンでの知見を元に溶媒や合成工程、過飽和度を絞り込み、結晶化に成功した際には先ず準安定形の溶解度曲線を求める。その後、初年度と同様に高溶解性溶媒を用いた低過飽和溶液中での結晶化が経時安定性向上に効果的につながるかどうかを検証する。本研究によって超音波印加法による多形制御技術の応用展開の可能性が広がると考えている。3.特定のポリマー界面で三水和物が生じるという新しい現象について、その結晶化過程の検証を進める。これまでのレーザー誘起核発生、超音波印加技術には気泡の発生が共通して見られることから、ポリマー界面での表面積や残留気泡に注目して各種ポリマー、形状、溶媒依存性などを調べる。また、1~3、及び過去の知見を総合して、薬剤候補化合物の準安定形選択晶出に効果的な一般展開可能な合成工程の構築を目指す。
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Applied Physics Express
巻: Vol.8, No.6 ページ: 065501-1-4
http://dx.doi.org/10.7567/APEX.8.065501