従来の分子インプリンティングにおいては単一の分子のみを鋳型分子として用い、結果として単一標的分子に対する認識空間が構築される。しかし分子インプリンティングの原理上、複数の鋳型分子を用いることで、異種標的認識空間が同時に構築された分子インプリントポリマー(MIPs)の合成は可能と考えられる。ただし、異種標的認識空間それぞれに個別の標識を行い、独立して結合挙動を評価する仕様にしなければならず、その実現は容易ではない。 本研究では、前立腺がん特異抗原(PSA)とα-フェトプロテイン(AFP)を標的タンパク質とし、これら二種のタンパク質に対して同時に認識可能な分子インプリントポリマー薄膜の合成を、ポストインプリンティング修飾を駆使して実現することを試みた。センシング能付加のため、PSAとAFPの認識空間にそれぞれ対応する蛍光分子を導入するが、その目的のため、蛍光分子を導入しない空間は、標的分子を添加して保護することにより、PSAとAFPの認識空間に異なる蛍光分子を導入できる新たなポストインプリンティング修飾を考案し、PSAとAFPが個別に同一基板上で測定可能なインプリントポリマーPSA・AFP-MIPを作製した。 PSA単独のインプリントポリマーPSA-MIPおよびAFP単独のインプリントポリマーAFP-MIPとの比較から、得られたPSA・AFP-MIPは、これらと同等の結合能を有していた。また、選択性実験の結果、MIPの認識空間がPSA及びAFPに対応する蛍光フィルターを用いることで選択的に認識することが分かった。このことから、複数の鋳型分子を用いることで異種標的認識空間が同時に構築された分子インプリントポリマー薄膜の作製が可能であると示唆された。また、ポリマー薄膜作製時の重合条件の最適化、および蛍光導入条件の最適化を行うことでさらに機能の向上を見込むことができると考えられる。
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