近年、人的交流のグローバル化や気候温暖化などによって、昆虫などの節足動物が媒介するウイルス病の脅威が加速している。実際、約70年ぶりに蚊が媒介するデング熱の国内感染が確認され、感染者数は160名を越えた。この問題に、共生細菌の研究から大きな手がかりが与えられている。すなわち、共生細菌ボルバキアが、共生したショウジョウバエに、プラス鎖一本鎖RNAウイルスに対する抵抗性を付与することが報告された。細胞内共生細菌は、自立増殖が出来ないために、宿主に利益を与え共生関係を維持しようとする。ボルバキアも、垂直伝搬し自立増殖できない。したがって、この現象は、共生細菌が宿主を操作し、ウイルス感染を利用して共生細菌を保菌する個体群を維持し、共生細菌の伝搬を図る戦略と捉えることが出来る。本研究では、研究代表者が明らかにした共生細菌によるウイルス抵抗性付加機構を基盤に、共生細菌を模倣する抗ウイルス薬の開発に必要なスクリーニング系の構築を目指した。昨年度、研究代表者が明らかにした宿主因子RBPに着目して、共生細菌を模倣する抗ウイルス薬のための化合物探索系の開発を目指したが、検出感度の問題から計画を変更した。目的を達成するために、ショウジョウバエ培養細胞に共生細菌を感染させ、共生細菌によるウイルス抵抗性付与を培養細胞で再現できる系を確立した。そこで本年度、この系が共生細菌を模倣する抗ウイルス薬の開発に必要なスクリーニング系として利用できるかどうか検討した。その結果、ショウジョウバエ個体と同様に、ボルバキアが宿主因子RBP依存に、培養細胞にウイルス抵抗性を付与していることが明らかとなった。この結果は、共生細菌が感染した培養細胞を用いて、共生細菌を模倣する抗ウイルス薬のスクリーニングが可能となったことを示している。
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