研究課題
Cochlinは常染色体優性遺伝性難聴疾患DFNA9の原因遺伝子COCHのコードするタンパク質であり、内耳の蝸牛や三半規管に高発現している。N末端からLCCL、vWA1、vWA2のドメインから構成される分泌タンパク質である。COCH遺伝子上に変異が生ずると、20から40代で進行性の難聴障害と平衡感覚障害を呈する。現在までにDFNA9患者ではCOCH遺伝子上に約20種類のミスセンス変異が報告されており、その変異はLCCLドメインに集中している。Cochlinが何らかの細胞外マトリクス成分と相互作用するという仮説を立てリガンドの探索を行った。Cochlinを細胞表面に発現させたレポーター細胞を作成し、細胞外マトリックスを構成するさまざまな分子と結合を調べたところ、ヒトCochlinはグリコサミノグリカン (GAG)の一つであるヘパリン (Hep)と強く結合し、特にN硫酸化が両者の結合に必須であることがわかった。CochlinとGAGとの結合は、LCCLドメインを介して結合していることが示唆された。DFNA9患者にみられる変異を導入した8種類のCochlin変異体レポーター細胞を作成し糖結合性を調べたところ、いずもwild-typeと比較してHepに対する結合性が低下していた。しかも、その結合性の低下と難聴発症時期には正の相関が見られ、病態との関連が認められた。一方、免疫組織化学的解析を行うために、マウスcochlinに関しても同様のGAG結合性について検討を行った。その結果、ヒトと類似のGAGに対する親和性が示された。また、マウスcochlinに対する複数のモノクローナル抗体の取得にも成功した。今後、この抗体を用いて老齢マウスと若齢マウスの内耳組織の比較、GAG鎖の量や硫酸化の程度について検討し、難聴発症のメカニズムに迫る予定である。
2: おおむね順調に進展している
マウス内耳組織を用いた組織染色を行うためのマウスcochlinに対するモノクローナル抗体を複数取得することができた。これにより、遅発性の難聴がどのようなメカニズムで発症するに至るのかという点に関して、さまざまな週齡のマウスを比較検討することができるようになった。また、内耳組織から調製したGAGの分析も平行して行い、聴力の測定と合わせて疾患の本質に迫ることができると考えている。
ヒトCochlinで明らかにしたGAGに対する親和性などの性質が、マウスcochlinでも同様に当てはまることが確認できた。そこで、今後は主にマウスを用いた解析を重点的に行う予定である。具体的には、(1) マウス内耳組織におけるcochlinの局在や発現量について、若齢マウスと老齢マウスの比較、またGAG硫酸化ができないPAPSノックアウトマウス等を用いて、比較解析する。(2) また、マウス内耳組織におけるリガンド糖鎖の局在につて、さらには内耳組織からGAGを精製し2糖繰り返し構造に分解して硫酸化の位置や程度をHPLCで分析するなどして、cochlinとリガンド糖鎖との加齢に伴う変化について検討する。(3) また定量的な解析を行うために、cochlinそのものやリガンド糖鎖の生合成に関わる酵素群の発現量についても、リアルタイムPCRを用いて定量し、経時的な変化について詳細に検討する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件)
PLoS One
巻: 10 ページ: 1-13
10.1371/journal.pone.0145834