昨年度、ヒト及びマウスCochlinを細胞表面に発現させたレポーター細胞を作成し、いずれのCochlinもグリコサミノグリカン(GAG)の一つであるヘパリン(Hep)に結合することを見出した。また、変異体ではHepとの結合が減弱することを見出した。一方、マウスCochlinと免疫グロブリンのFc領域を結合させた融合タンパク質をHEK293T細胞で発現させ、Protein Gカラムで精製した。この精製Cochlin-Fcを用いてマウス内耳のパラフィン包埋切片を染色したところ、らせん板縁、基底板、らせん靱帯辺縁部、蓋膜が染色された。また、作成した抗マウスCochlinモノクローナル抗体で染色すると、蓋膜以外では同様に染色が認められ、両者が共局在することが確認された。さらにヘパリナーゼまたはコンドロイチナーゼ処理した内耳切片をCochlin-Fcにより染色するとその染色が減弱した。また、Cochlin-Fcによる染色に高硫酸化GAGを添加すると染色が抑制された。このことからマウス内耳においてCochlinと相互作用するリガンドは硫酸化GAG、特にコンドロイチン硫酸であることが示唆された。次に、Cochlinが蝸牛においてどのような生理機能を担っているかを推察することを試みた。CochlinはLCCLドメインとvWAドメインを繋ぐリンカーがAggrecanase-1により切断されることが知られている。この切断とCochlinと硫酸化GAGとの相互作用の相関について検討した。wild-type Cochlinは硫酸化GAGの添加により切断が促進されたが、変異体(G88E)はその切断は僅かであった。Aggrecanase-1が内耳組織で発現しているかは抗体で確認ができなかったが、この切断と難聴との間に何らかの因果関係がある可能性が考えられた。
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