研究課題/領域番号 |
15K14952
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
上原 孝 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (00261321)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 一酸化窒素 / ニトロシル化 / 小胞体ストレス / UPR / 酸化 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,酸化ストレス刺激に応じてどのようにして小胞体ストレスが惹起されるか,また,その後に活性化されるunfolded protein response (UPR) に対して影響があるのかどうかを明らかにすることである.初年度は一酸化窒素(NO)をストレッサーとし,UPR駆動に重要な小胞体膜センサーに対する影響についてシグナル経路毎に解析を行った. まず初めに,小胞体ストレスシグナル系におけるNO結合性タンパク質の網羅的探索を抗体アレイ法/ビオチンスイッチ法を用いて解析した.同時に,特異的抗体を用いて分子特異的な修飾の有無を観察した.その結果,UPRセンサーの中,IRE1αおよびPERKがNOによって修飾されることがわかった.一方,ATF6にはまったく影響を及ぼさなかった.そこで,NOによるIRE1経路への影響について解析を進めた. IRE1は小胞体内腔に変性タンパク質センサー機能を有し,この蓄積に応じて,2量体/多量体化/自己リン酸化を引き起こす.そこで,NO処理をしたところ,これらの応答にはまったく変化が認められなかった.このことから,IRE1のS-ニトロシル化は変性タンパク質を認識する初期段階には影響しないことが示唆された.つぎに,RNase活性(xbp-1 mRNAスプライシング)について調べたところ,NOはこのスプライシングを抑制した.そこで,RNase活性に必要な部位(KEN domain)におけるCys残基をSer残基に変換した変異体を作成し,NOの影響を調べた.興味深いことに,Cys931/Cys951がNOの標的であることがわかったが,とくに,Cys931変異体を発現した細胞ではNOの抑制効果が消失することが認められた. 以上より,NOはIRE1αのCys931をニトロシル化することで,酵素活性を抑制していることが示唆された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度より,UPRにおけるNOの標的タンパク質を複数同定することに成功した.これまでにUPR自身がレドックス制御されていることは報告されていなかった.ここで得られた知見は,新たなUPR調節機構を示すものであり,当初の計画を上回って進み,成果を原著論文にまとめるに至った.これ以外にも,PERK経路に対する影響や他の親電子性化合物の効果に関して解析し,さらには,病態生理学的側面からのアプローチも追求すべきであり,つぎに実行すべき課題が着実に多くなりつつある.このように本研究課題は広がりつつあり,酸化ストレスと小胞体ストレス応答の関係を明らかになりつつあることを認識しているところである.
|
今後の研究の推進方策 |
現在は,他のUPR経路に対するNOの影響について解析するとともに,NO以外の親電子性化合物(メチル水銀,1,2-ナフトキノン,4-ヒドロキシノネナールなど)の影響と反応性の違いについて検討しているところである.このような調査から,酸化ストレスによる細胞応答の違いを説明出来ることに繋がることを期待している.
|