今年度は,他の親電子性化合物であるメチル水銀の影響について解析し,酸化ストレス誘発性の細胞死惹起経路をタンパク質修飾から明らかにすることを目的とした. メチル水銀は濃度,処理時間依存的に神経細胞死を惹起することを確認した.この刺激によって,速やかなATF6の限定分解やeIF2のリン酸化が認められた.一方,IRE1はそれ自体の自己リン酸化は検出されたものの,下流のXBP1 mRNAのスプライシングは全く認められなかった.そこで,IRE1 KO MEFを使用し,これにCys931ならびに951をSerに置換した変異体をトランスフェクションすることでその効果を観察した.その結果,C931S変異体発現細胞でのみ,メチル水銀によるXBP1 mRNAのスプライシングが認められた.このことから,メチル水銀はIRE1のCys931を標的として,この経路を阻害することがわかった.IRE1-XBP1経路は抗細胞死効果に重要なシャペロンなどの発現に関わっている.一方,PERKおよびATF6経路はCHOPの発現を介してアポトーシスを惹起することが知られている.そこで,PERK特異的阻害薬GSK2606414を処理し,メチル水銀によるUPRと細胞死に対する影響を調べた.GSK2606414はメチル水銀によるCHOP発現を阻害し,アポトーシス細胞数を有意に抑制することがわかった. 以上より,環境性親電子性化合物であるメチル水銀は小胞体ストレスを介してアポトーシス様の細胞死を惹起すること,これは主にPERKとATF6経路の活性化によることが明らかとなった.
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