研究課題/領域番号 |
15K14953
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
花岡 文雄 学習院大学, 理学部, 研究員 (50012670)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 損傷乗り越え合成 / DNAポリメラーゼ / 遺伝毒性 |
研究実績の概要 |
哺乳類の代表的な損傷乗り越え型DNAポリメラーゼであるPolη、Polι、Polκの三重欠損細胞(triple KO細胞;TKO細胞)を野生型(WT)あるいはそれぞれのポリメラーゼの単独欠損細胞と比較しつつ、作用機序の異なる様々な遺伝毒性物質に対する感受性を、ミトコンドリア活性を指標としたMTSアッセイにより調べた。アルキル化剤であるメタンスルホン酸メチル、DNA架橋剤であるマイトマイシンCおよびシスプラチン、酸化剤である臭素酸カリウム、一本鎖切断を誘発するカンプトテシンなどの化合物に対し、TKO細胞は最も高い感受性を示した。そこでこれらの化合物に加え、遺伝毒性の有無が既知の医薬品、食品添加物、あるいは環境・食品汚染物質に対するWT細胞とTKO細胞の感受性の比(IC50-WT/IC50-TKO)を測定したところ、11種類中10種類の遺伝毒性物質でTKO細胞はWT細胞に比べて有意に高い感受性を示し、IC50-WT/IC50-TKO値が2以上を判定基準とした場合の感度は90.9%であった。一方で、塩化アンモニウムなど6種類の非遺伝毒性物質に対してTKO細胞はWT細胞と同程度の感受性を示し、IC50-WT/IC50-TKO値はいずれも2以下であった。またメタンスルホン酸メチルで処理したTKO細胞では、ユビキチン化PCNAおよびγ-H2AXの蓄積がWT細胞より亢進していたが、塩化アンモニウム処理ではいずれの細胞でもそれらの蓄積は見られなかった。これらの結果から、TKO細胞は様々な機序の遺伝毒性物質に高感受性を示し、新規遺伝毒性スクリーニング系に有用であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝毒性物質のスクリーニング系として、TKO細胞の細胞増殖能を指標とする方法が有望であることが明らかになった点で、ほぼ順調に進んでいる。ヌクレオチド除去修復(NER)系の欠損細胞やTLS欠損とNER欠損の両者を併せ持つ細胞の解析が少し遅れているが、TKO細胞についてその他の解析も進んでいることから、全体的には「(2)おおむね順調に進展している。」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はTKO細胞で遺伝毒性物質が高い細胞毒性を示すメカニズムについて、いくつかの代表的な化合物、例えばメタンスルホン酸メチルやシスプラチンについて調べていきたい。また代謝活性化を必要とする遺伝毒性物質であるシクロホスファミドやベンゾ[a]ピレンなどに本系の適用を試みる。NER欠損とTLS欠損を併せ持つ細胞についても、感受性の更なる上昇を期待して推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進展に伴って、新規の研究計画を進める必要が出来たが、その研究が簡単には進められないことが研究期間の最後のほうになって判明した。そのため研究期間を延長する必要が生じ、次年度に予算を繰り越すことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
実験としてはNER欠損細胞とTLS欠損細胞およびNERとTLSの二重欠損細胞を作成し、その細胞の種々の化合物に対する感受性を評価する予定である。そのための消耗品購入に次年度へ繰り越した予算を使用する。
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