研究課題
生体内で生成される活性イオウが、活性酸素や環境汚染物質などの親電子性の高い化合物(親電子物質)を生体内で適切に処理・排泄する重要なシステムであることが近年の研究から明らかになってきている。心臓においても、活性イオウの蓄積が心拍数を負に制御することで様々なストレスに対する抵抗性の獲得に寄与することが我々の研究から明らかになってきた。平成27年度は、活性イオウの分子実体がタンパク質中に含まれるシステインのポリ硫黄鎖であり、ポリイオウ鎖の枯渇が虚血性心不全などの病態を引き起こす引き金となる可能性をマウスレベルで明らかにした。具体的には、心筋ミトコンドリア分裂を促進するGTP結合タンパク質dynamin-related protein 1 (Drp1)に含まれるポリイオウ鎖がMeHgなどの環境汚染物質により枯渇することでDrp1が活性化され、ミトコンドリアの過剰分裂を引き起こすことがわかった。興味深いことに、心筋ミトコンドリアの過剰分裂は心拍数も低下させることがわかった。しかしながら、体温低下は伴わなかったことから、本現象はいわゆる生理的な冬眠化とは異なるメカニズムでおこる可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
心筋細胞内で活性イオウの主たる生成源、および分子実体を明らかにした。活性イオウの生成酵素を発現させたマウスは現在作成中であり、生まれてきたマウスの表現型解析を平成28年度中に進められる準備が整ってきている。
活性イオウの分子実体がタンパク質中に含まれるシステインポリイオウ鎖であることがわかった今、一つのシグナルタンパク質のポリイオウ鎖だけで生体恒常性を説明することが困難となり、今後は活性イオウプロテオミクスの系を充実化させ、心臓の生理的変化あるいは病態形成における活性イオウの変化を網羅的に解析する必要がある。細胞・組織レベルのポリ硫黄を検出する方法については、東北大学医学部・赤池孝章教授と密に連携し、半定量的な解析方法が確立できつつある。このケミカルバイオロジー技術を基礎生物学研究所に整備されている質量分析設備と融合させることで、上記の網羅的解析をスムーズに進めることが可能となる。
ラット心臓キメラマウスおよび心筋特異的活性イオウ生成酵素発現マウス、欠損マウスの作出が平成27年度中に終わらなかったため。
ラット心臓キメラマウスのbackgroundとなるNkx2.5ヘテロKOマウスが繁殖してきたことから、平成28年度は量産的に胚操作と心機能解析・形態構造観察を行う。心筋特異的活性イオウ生成酵素発現マウスおよび欠損マウスを繁殖させ、安定してきたところで凍結胚を作成する。また、その間に心機能解析・形態構造解析も行う。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 4件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 6件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
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