研究課題
本研究では、うつ病発症に関わる脳内変化を明らかにするため、最近開発した高速高精細全脳イメージングシステムと神経活動レポーター(Arc-dVenus)マウスを用いて、慢性社会的敗北ストレス(CSDS)により情動障害を発症したマウスの全脳神経活動マッピングを行った。全脳画像からVenus陽性細胞数を脳領域毎に自動計測し、ストレス負荷をしていないコントロール群と比較した。その結果、CSDS群、コントロール群ともに、恐怖や不安に関わる脳領域において活性化した神経細胞の数に違いはみられなかったものの、これまでストレスとの関連が未知の脳領域において、活性化した神経細胞が有意に低下していた。この領域のdVenus陽性細胞数は、社会的相互作用試験時のすくみ時間と負に相関していることも見出した。さらに、全てのVenus陽性細胞の数と位置情報を用いて、探索的データ解析の一つである主成分分析を行った結果、この領域が異常行動と強く関連する脳領域であることを見出した。蛍光蛋白質による神経回路を標識する実験から、この領域は恐怖や情動に関与する扁桃体や前頭前皮質と双方向に、また、ストレス応答の中枢である視床下部や腹側海馬とも神経回路を形成する結果を得た。以上より、繰り返されるストレスによる社会的忌避行動の発現機序に、この領域の神経活動の低下が関与する可能性を示唆した。また、高精細な全脳活動マップを用いて群間比較を実施することにより、従来知られていた脳領域以外の新たな脳領域を検出することに成功したことから、新たな脳科学の研究手法として有用であることを示したと考えられる。
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Frontiers in Molecular Neuroscience
巻: 9 ページ: -
10.3389/fnmol.2016.00126