研究課題/領域番号 |
15K14965
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
新谷 紀人 大阪大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (10335367)
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研究分担者 |
尾中 勇祐 大阪大学, 薬学研究科(研究院), 特任助教(常勤) (90749003)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | がん / 中枢神経 / モデル動物 / 精神機能 / 担がん動物 / サイコオンコロジー / がんサバイバー |
研究実績の概要 |
近年の抗がん剤・治療法研究の進展により、がん病態下ならびにがん治療後の情動・認知機能障害(うつ状態や記憶力の低下)が、新たな治療標的として顕在化している。本研究では、がんの進行・治療に伴う精神病態の発現変化を、他の生理機能変化との時間的連関に注目しつつ、がん細胞を末梢に移植した実験動物および各種の分子行動薬理学的手法により半網羅的に解析し、がん患者や、がん治療後の生存者(がんサバイバー)の生活の質の向上に資する基礎的知見を得る目的で実施し、平成27年度は以下の成果を得た。 まず、マウス大腸がん細胞を腹部に皮内投与したマウス(担がんマウス)をがん病態のモデルマウスとして用い、検討を行ったところ、本マウスでは、腫瘍の形成とともに、血中の炎症性サイトカイン濃度の増加や情動・認知機能障害の発現を示すことや、また、情動・認知機能障害は、体重・摂食量の減少など、身体的な変化に先だって認められることを明らかにした。本結果は、情動・認知機能障害の発現が、がん進行のマーカーとなる可能性を示すと考えられる。 次に、がんの治療モデル(がんサバイバーの動物モデル)を作製する目的で、上述の担がんマウスから、形成された腫瘍を外科的に摘出したモデルを作製し、表現型の解析を行った。その結果、先の担がんマウスで認められた体重・摂食量の減少、および血中の炎症性サイトカインの増加は、腫瘍の摘出によってほぼ完全に消失する一方で、情動・認知機能は持続的に障害される傾向を認めた。今後、例数の追加等を行うことで、本モデルががんサバイバーの動物モデルとなりうるのかを検証する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
担がん動物の半網羅的表現型解析がほぼ終了し、本モデルにおいて情動・認知機能障害が認められることを確認するほか、がんの治療モデル(がんサバイバーの動物モデル)の作製を年度内より開始できており、概ね順調に進んでいると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、がんの治療モデルにおける表現型を解析することで、ヒトのがんサバイバーの精神行動障害のモデル動物となりうるのかどうかを評価する。また、がん病態モデル、がんの治療モデル、それぞれの脳内モノアミン含量や、サイトカイン発現量を解析・比較することで、これらの精神機能異常の神経基盤などを追及する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、モデル動物の脳内遺伝子発現変化についても半網羅的な解析を行う予定であったが、研究の推進過程で動物の行動変化に興味深い知見が得られたため、初年度は行動解析に注力をした。そのため、分子生物学的解析を行うために計上していた予算に残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
行動変化の評価が初年度中にほぼ完了したことから、次年度は特にその神経基盤を解明する目的で、残予算を用いて、分子生物学的解析を推進する予定である。
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