研究課題/領域番号 |
15K14966
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
伊藤 芳久 日本大学, 薬学部, 教授 (50151551)
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研究分担者 |
須川 晃資 日本大学, 理工学部, 助教 (40580204)
小菅 康弘 日本大学, 薬学部, 准教授 (70383726)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 運動ニューロン / PGE2受容体 / 神経突起 / ナノ粒子 / 細胞毒性 / グラフェン |
研究実績の概要 |
光応答性材料として、近赤外域(中心波長:約750 nm)にて強く光を吸収する異方性金ナノ粒子である金ナノスターを合成した。また、ドラッグキャリアーとして合成した酸化グラフェンナノシートに、アミノ基を末端に有する分岐ポリエチレングリコールをアミド結合を利用して修飾した化合物を合成した。両化学材料を金-アミノ基間の強い配位結合を利用して複合化することに成功した。この複合ナノ材料にモデル薬剤としてドキソルビシンを複合させることに成功したが、近赤外レーザー光(808 nm)の照射により高効率な発熱現象が認められた。 次に、運動ニューロン様株化細胞であるNSC34細胞を用いて、合成した酸化グラフェンナノシートの細胞障害性を検討した。その結果、酸化グラフェン曝露によるPropidium Iodide(PI)陽性細胞の増加や乳酸脱水素酵素(LDH)の上昇は認めらず、細胞死の誘導に関与するCaspase-3の活性化も認められなかった。以上のことから、NSC34細胞において合成した酸化グラフェンナノシートの細胞毒性は非常に低いことが示唆された。 加えて、昨年度の研究により見出すことに成功したprostaglandin E2 (PGE2)がNSC34細胞において示した突起進展促進作用のメカニズムを検討したところ、EP2受容体の活性化による細胞内cAMPレベルの上昇が関与すること見出した。一方で、細胞障害性を示さない濃度のPGE2の長時間曝露は、NSC34細胞のPGE2の4つの受容体サブタイプのうちEP2受容体の発現を選択的に増加させ、PGE2が誘発する細胞死を増加することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、神経細胞に導入可能なキャリアとして合成したグラフェン化合物の細胞毒性および細胞障害性を中心に評価し、酸化グラフェンナノシートは細胞障害性の低い化合物であることを明らかにした。 また、昨年度の研究により見出したPGE2の新たな薬理作用のメカニズムを検証し、EP2受容体に活性化によるcAMPシグナルの増加がNSC34細胞の神経突起進展に関与するというメカニズムの一端を明らかにすることに成功しただけでなく、低濃度のPGE2の細胞外刺激がEP2受容体の発現分布に影響を及ぼすという新たな現象を発見した。さらに、このEP2受容体の発現増加は、ALS発症直後のALSモデルマウスの運動ニューロンおいても誘発されることを見出した。 一方、酸化グラフェンの細胞内移行性については、蛍光指示薬の内包化に手間取ったため十分な検討が行えなかった。なお、化合物の移行性については、新たにレチノイン酸内包化複合体を作製し、来年度検証する予定である。 このように、当初の研究計画の一部に変更が生じたものの、PGE2の神経突起進展作用のメカニズムやPGE2が運動ニューロンのEP受容体の発現分布に影響を及ぼすという新たな知見を見出すことに成功したため、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
複合体の細胞内移行性を確認するために、Cy3などの蛍光指示薬を内包させた複合体を作成する予定であったが、その合成に苦慮した。そこで、NSC34細胞はレチノイン酸処置により神経様に分化するという特性を生かし、レチノイン酸内包化複合体を作製し、マーカータンパク質の発現レベルや細胞形態の変化を指標に、複合体の細胞内移行性(機能)を評価する予定である。 また、PGE2を内包化した複合体を作製し、NSC34細胞内に導入したPGE2 (細胞内刺激)が示す細胞障害性をMTT法またはLDH法などを用いて測定し、培養液中に曝露したPGE2(細胞外刺激)誘発細胞死との違いを比較する。次に、それらの細胞死誘発機構についても比較検討するため、caspase-3の活性化およびBax, Bakなどのミトコンドリア内の細胞死関連タンパク質の発現変化について詳細に検討する。 さらに、PGE2の細胞内刺激および細胞外刺激がEP受容体の発現分布に及ぼす影響の違いを遠心分画法および免疫細胞化学法により評価し明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、酸化グラフェンナノシートの大スケール合成に際して必要な工程を再度見直した。その結果、合成プロセスを簡素化するスキームを見出し、大スケールで比較的簡易に当該化合物を合成することに成功した。そのため、研究計画時に予定した使用試薬種が減少し、それらに相当する試薬の購入費が減少した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、本年度の検討より新たに見出された問題点である近赤外レーザー照射による発熱現象を制御する方法を開発する予定である。具体的には、レーザー照射による発熱を極力抑えつつ、ドラッグキャリアーとして機能しうる材料を探索する。現在のところ、Auに加え、Pdもしくは一部の半導体で構成されるナノ粒子が有力な候補になりうると考えている。そのため、これらナノ材料の合成に使用する材料の購入に使用する予定である。
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