本研究では、真核生物のリボソーム標的薬であるハイグロマイシンB(HygB)に耐性をもつ糸状菌を作成し、耐性糸状菌が生産する新規二次代謝物を探索した。胞子形成能の高いAspergillus属やEupenicillium属糸状菌に対し、変異原である1-メチル-3-ニトロ-1-ニトロソグアニジン(MNNG)を作用させ、ランダム変異を導入した後、糸状菌をHygBを添加した培地で培養してHygB耐性株を選別した。また、同様な手法により、昆虫寄生糸状菌であるCordyceps indigoticaのHygB耐性株を取得した。得られた耐性株については、そこに含まれる二次代謝物をHPLC分析し、野生株と比較することで、新規二次代謝物の生産の有無を確認した。さらに、新規二次代謝物を生産することがわかった糸状菌株を大量培養して代謝物を分離した。その結果、C. indigoticaの耐性株から新規ナフトール誘導体を得た。 ところで、多くの糸状菌では十分な量の胞子を形成させることは難しい。そこで、Chaetomium indicumの菌糸を用いて、そのHygB耐性株を取得することができるかどうかを調べた。すなわち、菌糸の処理法、MNNGおよびHygB濃度等の条件を種々検討し、耐性株が取得できた。次いで、耐性株で生産される成分をHPLC分析により経時的に追跡し、二次代謝プロファイルの詳細を調べた。その結果、培養時間とともに生産される成分に大きな変化が見られた。そこで、耐性株を大量培養し、野生株では見られない成分に着目し、3種の新規芳香族ポリケタイドを単離した。いずれもO-プレニル化された芳香族ポリケタイド類であり、ユニークな5環式構造を有しているものもあった。
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