研究課題
セリ科薬用植物のトウキ、ビャクシ、ハマボウフウを食害しているキアゲハ幼虫を採集し、吐き戻し液をそれぞれ採取した。吐き戻し液の希釈試料に対しLC-MSによる網羅的成分解析を行った。検出された化合物のうち宿主が異なる幼虫の吐き戻し液に共通する成分を特定することにより、脂肪酸誘導体由来のエリシター候補化合物を同定した。この、エリシター候補化合物をボウフウの培養植物に5日間接種し、植物体に含有されるFalcarinol及びBergapten量を測定したところ、コントロールと比較して両化合物の含有量が有意に増加していた。さらに、培地に放出される両化合物量も顕著に増加していた。この結果から、今回特定した脂肪酸誘導体が、セリ科薬用植物に対して二次代謝物の生合成を誘導するエリシターであることを明らかにした。植物は生態系からのストレスに耐えるためタンパク質の合成などを行い、防御機構を発動させる。そのためには、植物ホルモンがシグナル伝達物質として重要な役割を果たす。環境の変動(乾燥・低温・高塩濃度など)に対してはアブシジン酸が、病原菌抵抗性にはサリチル酸が、虫の食害などに対してはジャスモン酸が初期段階で関与することが知られている。今回見出したエリシターによる二次代謝物生合成の誘導において、どのシグナル伝達系が関与しているかを明らかにするため、エリシター接種後葉から放出される成分をSPME-GC-MSにより分析した。その結果、リノレン酸13-ヒドロペルオキシドから生成されることが知られている3-ヘキセノールなどのオキシリピン類が検出された。リノレン酸13-ヒドロペルオキシドは、ジャスモン酸生合成における前駆物質であり、この結果からこのエリシターによる二次代謝物の生合成誘導にはジャスモン酸シグナル系が関与していることが推定された。
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Journal of Natural Medicines
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