研究課題/領域番号 |
15K14973
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
新井 誠 公益財団法人東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, プロジェクトリーダー (80356253)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 天然活性物質 / 統合失調症 / ヤマブシタケ / メタボローム解析 |
研究実績の概要 |
本研究では、顕著な奏功が認められた症例に着目し、従来の病態仮説に依拠しない統合失調症の分子病態を明らかにすることを目的とし、希な症例に学び、精神疾患に苦しむ当事者のリカバリーに向けた臨床応用をめざすこととねらいとしている。これまでに、アミロバンを含むヤマブシタケ(Hericium erinaceum)由来の抽出成分Amyloban3399 を服用した症例で顕著に症状が改善した報告がなされている(Inanaga, Personalized Medicine Universe, 2014; Inanaga et al., Personalized Medicine Universe, 2014)。そこで、本年度は、ヤマブシタケ由来抽出物を服用し、症状が著しく改善した1症例をまず対象に、糖化ストレスマーカー(ペントシジン、ビタミンB6)の分析を実施した。研究開始時、ペントシジン値は49 ng/mL、ビタミンB6値は12 ng/mLと正常範囲内であり、本症例は非カルボニルストレス性の症例(Arai et al., Arch Gen Psychiatry 2010)であると判断した。さらに、年間を通じて時系列データでの検体収集を実施した。継時的な変化としては、症状の悪化に伴って、ビタミンB6の低下を呈した。現在、期間中における服薬量と症状変化、約200種の血液由来代謝産物の変動についてのCE-TOFMS、LC-TOFMS分析を行い、臨床症状変化と代謝産物との関連性について検証を継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該症例での複数ポイントでの時系列データを集積するとともに、網羅的に代謝産物変動データを集積した。また、次年度以降の多検体での検体収集に向けた倫理審査、研究実施計画を遂行している。
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今後の研究の推進方策 |
貴重な個の症例に学ぶという研究コンセプトに軸を置き、集積した質量分析データについて統計解析を実施する。初年度実施した1症例に加えて、複数例の症例を対象に、代謝オミックスデータとゲノムデータ相互の分析を行い、顕著な症状改善効果が認められた分子基盤を明らかにすることをめざして研究を推進する。また、ヤマブシタケの脳機能活性物質には、子実体から抽出して得られるヘリセノン類とアミロバン(複合物質)、菌糸体から抽出されるエリナシンがあることがすでに知られ、先行研究からもモーリス水迷路試験による学習能力の向上、神経成長因子(NGF)合成促進効果、アミロイドβ蓄積・神経細胞死の抑制効果、小胞体ストレス抑制作用などが報告されている。そこで、網羅的代謝分析から明らかになった遺伝子をノックダウンした細胞モデル系を用いて、ヤマブシタケ抽出物(エタノール抽出活性画分)による形態変化、遺伝子発現、タンパク質機能などの作用について解析を推進し、新たなproof of conceptの確立をめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、症例検体の収集、及び一般生化学検査費用として当該年度費用を支出した。症例の検体収集、担当医師との意見交流のため、主として出張費、学術集会参加に充当したため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
年間にわたり時系列での症例検体の収集が完了したため、次年度以降はより詳細なメタボローム解析のために費用を充当する計画である。また、複数症例を目標に検体収集を実施する計画である。合わせて、患者由来のリンパ球細胞、培養細胞を利用し、タマブシタケ抽出成分の効果について細胞生物学的な解析、あるいは生化学的、遺伝子発現解析などの検討を実施する計画のために費用を充当する。
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