研究課題/領域番号 |
15K14975
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
永次 史 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (90208025)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 逆転写阻害核酸系薬剤 / 薬剤耐性機構 / HIV治療薬 / ウイルスRNA / ヌクレオチド除去反応 / 架橋反応 |
研究実績の概要 |
核酸誘導体は抗がん剤、抗ウイルス薬など様々な薬剤として臨床応用されている。中でも抗HIV治療薬さらにはB型肝炎の治療薬として多くの核酸誘導体が服用されている。HIV及びB型肝炎の治療薬は長期投与が必要となるため、これらの核酸誘導体が効かない薬剤耐性ウイルスの出現が問題となる。これらの治療薬開発には薬剤耐性の克服が必要とされるが、現在のところ薬剤耐性機構に抵抗性を持たせる合理的な創薬指針はまだない。本研究では、薬剤耐性を持つ逆転写阻害核酸薬の開発に向けた新たな戦略の開発を目指した。具体的にはウイルスRNA鋳型鎖とプライマーDNA鎖間に不可逆的な共有結合を形成する核酸誘導体を用いた、耐性機構を克服した新規逆転写酵素阻害を提案した。すなわちウイルスRNA鋳型鎖とプライマーDNA鎖間に共有結合が形成された後、薬剤耐性機構であるヌクレオチド除去反応が進行しても、従来の核酸誘導体とは異なり、ウイルスRNA鋳型鎖上に修飾塩基が残り逆転写反応が完全に停止することを期待した。本年度はまず3‘末端に架橋反応性核酸である2-amino-6-vinylpurineを導入したオリゴDNAを合成し、その反応性を評価した。その結果、このオリゴは標的モデルDNAのチミンに対して、中性条件下効率的に反応することがわかった。従来、2-amino-6-vinylpurineはオリゴDNA中では酸性条件下、シトシンに対して反応することを報告していたが、今回、3’末端に導入することで中性条件下チミンと反応したことは非常に興味深い。次にHIV-1 逆転写酵素のヌクレオチド除去反応効率について検討した。しかし、HIV-1 逆転写酵素とdATP及びマグネシウムを加えたコントロール2本鎖DNAを用いた系においてもHIV-1 逆転写酵素による除去反応の進行は観測されなかった。今後、種々条件検討する必要があると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までの検討で中性条件下において、容易に架橋2本鎖DNAを調整できたことは、予想外によい結果であると考えている。しかし、コントロール2本鎖DNAでもHIV-1 逆転写酵素による除去反応の進行が観測されなかったことは当初予期していなかったことであり、今後解決する必要がある点である。一方、架橋2本鎖を用いたHIV-1 逆転写酵素の伸長反応を検討した結果、予想外の結果が得られた。まず、AVPを含むプライマ―(5’TTGTAGCACCATCCAAAGGTCT-AVP3’)と鋳型DNA(5’TCGAACATCGTGGTAGGTTTCCAGA- T - TTTTTCAGAC -FAM3’)を用いて、架橋2本鎖を調整した。この架橋2本鎖を用いてHIV-1 逆転写酵素によるプライマー伸長反応について検討した結果、dATPを用いて伸長反応を行った際には約5塩基伸長した位置にバンドが観測された。しかし、dATPとdGTPを用いた系ではdATPのみを用いたよりも短い位置にもバンドが観測された。さらに4種類のdNTPを用いた系でも2種類のdATPとdGTPを用いた系と同じ位置にバンドが観測された。これらの結果から架橋2本鎖は、HIV-1 逆転写酵素により認識されある程度は伸長反応が進行するものの、途中でプライマー伸長反応が阻害されることがわかった。この性質は当初予測しなかった結果であり非常に興味深い。今後さらに検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は下記の点について検討する。 1)HIV-1 逆転写酵素による除去反応の条件検討:昨年度までの検討においてコントロールDNAを用いた場合にも除去反応は進行しなかった。この原因として、用いた酵素反応条件において除去反応が阻害された可能性が考えられる。今年度はまず、コントロールでHIV-1 逆転写酵素による除去反応が進行する条件を検索し、架橋反応2本鎖を用いた除去反応についても検討する予定である。 2)架橋反応2本鎖DNAを用いたデコイ様機能を利用したHIV-1 逆転写酵素の阻害:昨年度までの検討において架橋反応2本鎖DNAはHIV-1 逆転写酵素により認識されるが伸長反応は途中で阻害することがわかった。この結果に基づき、今年度は架橋反応2本鎖DNAを用いてHIV-1 逆転写酵素を捕捉する、すなわちデコイ様機能によりことで、HIV-1 逆転写酵素を阻害できる可能性について検討する。現在までに、このような考え方に基づくHIV-1 逆転写酵素阻害法は報告例がなく、非常に新しい方法論であると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度においてHIV-1 逆転写酵素による除去反応の進行が観測されなかったため、その検討に使用する予定であった金額が残金として残った。モデル反応では標的としてDNAを用いていたが、実際はRNAを購入する予定であったが、RNAを用いた実験は行っていないので、その購入を予定した金額が残金となっている。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度の検討により、架橋2本鎖DNAがHIV-1 逆転写酵素の伸長反応を阻害することがわかったので、本年度はRNAをテンプレートとしたHIV-1 逆転写酵素の伸長反応を検討する予定である。この研究にはRNAの購入費用、及びHIV-1 逆転写酵素の購入が必要であるため、それに使用する予定である。
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