研究課題/領域番号 |
15K14977
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
好光 健彦 大阪大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (30301576)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アルカロイド / 脳腫瘍 / agelastatin A / Wnt/β-cateninシグナル阻害 / 抗がん剤 / 創薬 / 全合成 |
研究実績の概要 |
Agelastatin A(AA)は、抗がん剤の魅力的な創薬資源として世界中で獲得競争がなされている天然物である。その抗腫瘍活性の発現機構の詳細は未だ明確ではないが、Wnt/β-cateninシグナルの阻害によることが示唆されている。本研究では、本天然物の化学修飾と構造活性相関研究を基盤として、agelastatin A(AA)をモチーフとする脳腫瘍の新規治療薬の創製に挑む。 これまでの国内外での関連研究により、AAの化学修飾による誘導体化は悉く活性低下をもたらすことが知られていた。しかし、我々が最近の研究によって得た‘AA の1位窒素上置換基及び13位置換基の構造修飾が高活性誘導体の創製に繋がる’という新知見は、高い活性を備えたAA誘導体の創製が困難とされてきたこれまでの常識を一変し、今後の構造最適化における強力な指針を与えている。そこで、本平成27年度においては、AA骨格の1位窒素置換基及び13位置換基にバリエーションをもつAA誘導体の迅速な獲得をもたらす化学合成手法を確立することを目指して研究を進めた。 検討の結果、シリルエノールエーテル誘導体のラジカルアジド化を鍵として、入手容易な既知化合物から総10工程にてAAに至る全合成経路を開拓することに成功した。今回新たに確立した合成経路においては、アジド中間体の還元とそれに続くカップリング反応により、1位窒素原子上にさまざまな置換基を備えたAA誘導体を容易に調製することが可能となった。さらに、得られた誘導体の構造活性相関解析により、初期的な知見ではあるが、優れたin vitro活性を示す新規化合物を獲得することにも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本平成27年度においては、AA骨格の1位窒素置換基及び13位置換基にバリエーションをもつAA誘導体の迅速合成をもたらす手法を確立することを目的に研究を進め、ほぼ予定通り、既知化合物から10工程にてAAに至る新規全合成経路を開拓することに成功している。また、今回確立した合成経路は、アジド中間体の還元とそれによって得られるアミン中間体のカップリング反応を経由することを特徴とし、それゆえ、これまでの合成経路では容易ではなかった1位窒素原子にさまざまな置換基を有するAA誘導体の合成が可能となった。鍵となるラジカルアジド化反応の収率改善が目下の課題であるが、より綿密な条件検討により、この課題を克服し得ると予想している。さらに、本年度の研究によって得たAA誘導体を、ヒトがん細胞(DU145)に対する細胞毒性評価に付すことにより、優れた活性(in vitro)を有する新規化合物を獲得することにも成功しており、当初予定していた計画を概ね順調に遂行し得たと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究がほぼ順調に進んでいることから、当初の研究計画に大幅な変更はない。平成28年度においては、初年度に開拓した上述の合成経路に基づき、多岐に渡るAA誘導体の創製と構造活性相関研究をさらに推進し、有望なリード化合物の獲得を目指す。特に、1位窒素原子上の置換基に長鎖アルキル(アルキニル)基を配した誘導体や、1位窒素原子にリンカーを介してビオチンを連結させた誘導体の創製に挑む。後者の誘導体は、活性発現に関わる分子標的を同定するうえで有用なケミカルプローブとして機能し得ることから、活性発現機構の解明に向けた研究も並行して進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況に応じて適宜研究費を支弁したが、化学合成の条件検討が比較的円滑に進み、各種試薬の代金が比較的少額で済んだことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
申請交付時の研究計画通り、当初の研究目的の達成に向け、次年度計画的に経費を支弁する予定である。特に、多様な誘導体の合成に求められる種々の試薬や実験器具の購入等に研究費を使用する。
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備考 |
研究成果有体物移転・使用契約締結 MTA15-168 :Agelastatin A(INSERM /University of Paris East Creteil-Henri Mondor Hospital 2015年8月31日
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