本研究ではビスマス元素の「重元素でありながら高い生体親和性を示す」という特有の性質を有効活用することで、新しい光増感剤骨格としての含ビスマス蛍光団を開発し、腫瘍部位でのみその光増感能と蛍光が活性化されることで毒性の低い新しい光線力学診断・療法を確立することを目的とした。当該年度においてはまず、含ビスマス蛍光団BiRを使った腫瘍移植モデルマウスでの光照射による抗腫瘍効果について検証した。左右の下肢部にそれぞれ約1 cm3程度の腫瘍を形成させたマウスに対し、片側にBiRを局所注射後、BiRの励起波長である625 nmの赤色光LEDにより光照射を行なった。その結果、わずかではあるが、BiRによる腫瘍の縮小化傾向が見られた。しかしながら、光照射中にBiR自身の分解が確認され、安定性の面で課題があることが分かった。また、625 nmの光では生体組織透過性が低く、このことが治療効果が低い一因であると考え、より組織透過性の高い近赤外光での励起が可能なように構造展開が必要であると考えた。 そこで、近年ケイ素架橋ローダミン等に見られるように、蛍光構造部位を拡張した構造を有するBiR誘導体を設計し、合成を開始した。現在最終化合物の精製を待っているところである。一方、腫瘍特異性を高めるべく、抗体を使った光増感剤の腫瘍標的化およびEPR効果(enhanced permeability and retention)を狙ったナノ粒子へのBiRの担持についても検討した、BiRの官能基化には成功しており、今後はナノ粒子および抗体への担持を行い、これを使った光線力学療法への応用を実施する予定である。
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