研究課題
「ネクローシス型細胞死」の細胞特異的制御化合物の開発を目的とし、抗菌ペプチド由来ペプチドミメティック化合物D(KLAKKLAK)2とがん細胞選択的に膜透過可能なペプチド(CPP)を連結した新規ハイブリッド化合物を創製する。平成27年度は、がん細胞選択的膜透過性ペプチドの取得を目指し、肺がん細胞及び乳がん細胞に結合するペプチドリガンドの探索を行った。これまで細胞膜透過性ペプチドリガンドの同定に成功例があるbrasilパニング法を用いて上皮性腫瘍細胞株(lung adenocarcinoma A549及びbreast adenocarcinoma MCF-7)に結合するペプチドリガンドを探索した。ファージディスプレイライブラリCX7Cから3回のパニングにより、それぞれの細胞株に結合するファージクローンを複数回収し、れらのペプチド配列をDNA配列より決定した。しかし、特定のペプチド配列への収束は観察されず、複数のがん種の培養細胞株を用いてその結合特性を調べたが顕著な細胞選択性はみられなかった。細胞選択性のないCPP・HIV-1 tatを連結したD(KLAKKLAK)2は、用いたすべての細胞に細胞死を誘導した。その細胞死をカスパーゼ類の活性化など生化学的指標をもとに解析すると、1)非アポトーシス性細胞死であり、2)ネクローシスの指標であるHMGBの細胞外放出が起こっていることがわかった。これまでD(KLAKKLAK)2はアポトーシス誘導により細胞死を引き起こすと考えられていたが、状況によってはネクローシスも起こることがわかった。本結果は、連結される細胞選択的CPPの種類によって、誘導される細胞死がアポトーシスとネクローシスと変化することを意味している。したがって、本研究により新たなネクローシス誘導剤の開発が可能であることを示唆する。
3: やや遅れている
ヒト肺がん細胞A549およびヒト乳がん細胞MCF-7を用いたパニングの結果、細胞選択性の高いリガンドを得るには至らなかった。これまで白血病細胞やミクログリアを標的細胞としたファージディスプレイ法では、細胞選択性の高い細胞膜透過性ペプチドリガンドが効率良く得られている。理由ははっきりしないが、上皮系細胞と浮遊系細胞の違いや用いた細胞種が本パニングに適していなかった可能性が考えられる。平成27年度に実施予定であったネクローシス誘導配列D(KLAKLAK)2とのコンジュゲート作製、及びその細胞死誘導活性の評価には至っておらず、計画は「やや遅れている」状況である。
次年度は、既に報告のある肺がん細胞に結合するペプチドリガンドを用いて、ネクローシスを誘導するハイブリッドペプチドを作製する。続いて、Dアミノ酸置換体をマルチ自動ペプチド合成機により調製し、完全ペプチドミメティク化合物を得る。ペプチドミメティック化合物がネクローシスを起こしているか否か電子顕微鏡による観察、および生化学分析により精査する。さらに肺上皮系腫瘍細胞の移植動物モデルを作製し、本コンジュゲート化合物の腫瘍増殖能およびネクローシス誘導活性をin vivoで評価する。
ファージディスプレイ法により目的とする新規ペプチドリガンドが得られず、ペプチドコンジュゲートの作製ができなかったこと、および予定していた国際学会発表を取りやめたため。
平成27年度の未使用分は、既に報告されている肺がん細胞選択的結合ペプチドリガンドと細胞死誘導配列とのコンジュゲート作製、および7月に開催される細胞死に関する国際学会の費用にあてる。
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Clin. Cancer Res.
巻: 21(13) ページ: 3041-3051
10.1158/1078-0432.CCR-13-3059