本研究は、G蛋白質共役型受容体がリガンドと結合すると細胞内に速やかに取り込まれるエンドサイトーシス現象と細胞外膜小胞として分泌される現象に着目して開発した新規核酸リガンド探索法の確立と高機能化を進めるとともに、本探索法を用いたモルヒネ鎮痛効果を凌駕する高親和性核酸リガンドの創製と分子作用機序の解明を目的として実施した。本年度は、昨年度にCell SELEX法と新規探索法の両方法で同定することに成功したMOR受容体結合DNAリガンド(Apt-MOR)のMOR受容体結合特性を細胞結合実験により解析した。その結果、Apt-MORは、MOR受容体に対して少なくとも100 nM未満の親和性で結合すること、30塩基長以下に短鎖化することが可能であることが明らかとなった。次に、新規探索法の高感度化を実現するために細胞外分泌現象を精査したところ、一般に流布している膜小胞精製法では、膜小胞の生物物理化学的特性は完全に失われることを見出した。膜小胞の生物物理化学的特性は、新規探索法の高感度化を実現する上で極めて重要であると考えられたことから、細胞外分泌時点における生物物理化学的特性を保持した膜小胞の調整を可能にする新規膜小胞調製法を新たに考案して国内外特許出願を実施した。また、本膜小胞調製法により調製した膜小胞を免疫電子顕微鏡にて解析した結果、Apt-MORは粒径50 ~100nm程度の膜小胞の膜表面に発現するMOR受容体に結合していること、細胞情報間伝達能を有する膜小胞であるエキソソームとは生物物理化学的特性が明らかに異なる膜小胞群に結合している可能性を強く示唆する結果を得た。 尚、Apt-MOR・MOR受容体複合体の立体構造解析は、Sf9昆虫細胞発現系の条件検討に時間を要し解析には至らなかった。また 鎮痛機能解析は、新規膜小胞調製法の開発を優先したために解析には至らなかった。
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