研究課題/領域番号 |
15K14992
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
鍜冶 利幸 東京理科大学, 薬学部, 教授 (90204388)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | バイオオルガノメタリクス / メタロチオネイン / 有機-無機ハイブリッド分子 / 誘導 / 血管内皮細胞 |
研究実績の概要 |
平成27年度は,まず,血管内皮細胞のメタロチオネイン(MT)が亜鉛によって誘導されないという事象について詳細に検討した。その結果,無機亜鉛は細胞内に入るが,MT誘導に関与するMTF-1-MRA経路もNrf2-ARE経路も活性化しないことが分かった。また,MTF-1を選択的に活性化する亜鉛錯体bis(L-cysteinato)zincate(II)は確かにMTF-1-MRA経路を選択的に活性化したが,内皮細胞のMTは誘導できなかった。そこで亜鉛錯体ライブラリーを検索し,内皮細胞のMTを誘導する亜鉛錯体zinc(II) bis(diethyldithiocarbamate)を新たに見出した。この亜鉛錯体の特徴は,MTF-1-MRA経路を活性化するがNrf2-ARE経路は活性化せず,その点では亜鉛錯体bis(L-cysteinato)zincate(II)と同じであるが,内皮細胞のMTを誘導することであった。 zinc(II) bis(diethyldithiocarbamate)の銅置換体copper(II) bis(diethyldithiocarbamate)も内皮細胞のMTを誘導することを明らかにした。この銅錯体がユビキチンプロテアソーム系の阻害を通じてNrf2を活性化することも明らかにした。この銅錯体を活用し,MT-1A/Eの誘導にはMTF-1-MRA経路およびNrf2-ARE経路の両方の活性化が必要であるが,MT-2Aの誘導にはNrf2-ARE経路は関与しないことを示唆する結果を得た。 有機アンチモン化合物ライブラリーから,MT-1AおよびMT-2Aの転写誘導を行う化合物tris(pentafluorophenyl)stibaneを得た。この化合物を用いた検討の結果,やはりMT-1A/Eの誘導にはMTF-1-MRA経路およびNrf2-ARE経路の両方の活性化が必要であるが,MT-2Aの誘導にはNrf2-ARE経路は関与しないことが示された。 以上の結果は,MT-1の本来の役割が解毒機構にあり,一方,MT-2の本来の役割は亜鉛代謝にあることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者らは,有機-無機ハイブリッド分子のバイオロジーをバイオオルガノメタリクスと名付け,その研究を展開している。血管内皮細胞は血液と直接接している唯一のcell typeであり,血管病変の防御に重要な役割を果たしている。メタロチオネイン(MT)は亜鉛代謝制御に寄与するだけでなく,重金属の毒性軽減作用,抗酸化作用,炎症反応の抑制作用などを有する生体防御タンパク質である。本研究の目的は,有機-無機ハイブリッド分子を生体機能解析のツールとして活用し,MTアイソフォームの機能分化に重要な血管内皮細胞におけるMTアイソフォームの発現誘導に介在する細胞内シグナル伝達を解析し,エピジェネティックなMTアイソフォーム発現誘導制御機構についても検討を加えることである。 平成27年度は,計画通り,MTアイソフォームを誘導する有機-無機ハイブリッド分子ライブラリーとMTアイソフォームの分離分析系の構築に取り組んだ。後者については課題を残しつつ概ね確立し,前者では本研究の目的達成に有用な活性を示す亜鉛錯体zinc(II) bis(diethyldithiocarbamate),銅錯体copper(II) bis(diethyldithiocarbamate),および有機アンチモン化合物tris(pentafluorophenyl)stibaneを得ることに成功した。 そこで平成28年度に予定していた有機-無機ハイブリッド分子によるMTアイソフォームの誘導を介在する細胞内シグナル伝達経路を解析する研究に取り組み,内皮細胞のMTの誘導が無機亜鉛では起こらないこと,MTF-1-MRE経路の活性化だけでも起こらないことを明らかにするとともに,MT-1A/Eの誘導にはMTF-1-MRE経路およびNrf2-ARE経路の両方の活性化が必要であるが,MT-2Aの誘導にはNrf2-ARE経路は関与しないことを明らかにした。 これらの新知見は4報の国際学術論文として公表され,目標を超過達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年に研究が順調に進展し,エピジェネティックなMTアイソフォーム発現誘導制御機構が残っている。 重要な問題は2つあると思われる。第一は,銅錯体copper(II) bis(diethyldithiocarbamate)によるMT誘導においてMTF-1活性化に必要な亜鉛イオンはどこから供給されたのかという問題である。我々は,この銅錯体が小胞体から細胞質に亜鉛イオンを輸送する金属輸送体SLC39A7の発現を上昇させることを予備的に見出している。そこで,平成28年度は,copper(II) bis(diethyldithiocarbamate)による血管内皮細胞のMT誘導にこの亜鉛輸送体が関与する可能性を検討し明らかにする。また,この銅錯体によるSLC39A7の発現誘導を介在する細胞内シグナル経路についても検討する。 第二は,ヒストンのアセチル化によるエピジェネティックな制御の可能性である。MTF-1はp300と呼ばれるヒストンアセチル転移酵素活性を有するタンパク質と複合体を形成することが報告されている。そこで,ハイブリッド分子によるMTアイソフォームの誘導にMTF-1-p300複合体形成とヒストンのアセチル化や他のエピジェネティックな調節が関与するかどうかを検討する。これについては平成29年度での実施を計画するが,MTF-1活性化機構が順調に解明された場合には,前倒しして実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
有機-無機ハイブリッド分子ライブラリーを共同研究者より無償で入手できたこと,および試薬類が他の研究プロジェクトと重複するものを利用できたので,予定よりも少なくなった。また,実験をすべて研究室で実施できたため,謝金などが発生しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年は金属輸送体に関する検討を行うが,この輸送体は分子種が多いため抗体やプライマーなどに多くの費用が必要であることが予想される。それに使用する。
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