研究課題
平成27度,血管内皮細胞においてはメタロチオネイン(MT)の代表的な誘導剤である無機亜鉛が誘導能を示さないこと,銅錯体Copper(II) bis(diethyldithiocarbamate)(Cu10)およびtris(pentafluorophenyl)stibaneを分子プローブとして用いた研究から,内皮細胞のMT-1の誘導にはMTF-1-MRE経路およびNrf2-ARE経路の両方の活性化が必要であるのに対し,MT-2の誘導はMTF-1-MRE経路の活性化だけで起こることを明らかにした。平成25年度は,MTF-1を活性化する亜鉛イオンの供給源について検討を行った。内皮細胞をCu10で処理したとき,ZIP7 mRNAの発現上昇が認められた。そこで,ZIP7 siRNAを導入しZIP7をノックダウンしたところ,Cu1024時間処理ではMT誘導に変化は認められなかったが,48時間後においてCu10によるMT誘導の抑制が認められた。同様に,Cu10処理後8および16時間後にはZIP7のノックダウンによるMT-1A/1E/2A mRNA発現の抑制は認められなかったが,24時間後にはMT-2A mRNAの発現上昇が抑制された。他のZIPファミリーをそれぞれノックダウンしたときには,このようなCu10によるMT誘導の抑制は認められなかった。これらの結果から,ZIP7の発現上昇は小胞体から細胞質への亜鉛イオンの流出を促進し,この亜鉛イオンによるMTF-1の活性化がCu10によるMT誘導に寄与すると推察された。今年度の結果は,MT誘導を介在するMTF-1の活性化に必要な亜鉛イオンが小胞体からZIP7を介して供給されるという新しいMT誘導機構を示唆するものである。また,ほとんど不明であった亜鉛輸送体ZIP7の機能に新しい視点を与えるものである。
2: おおむね順調に進展している
メタロチオネイン(MT)の誘導機構については不明な点が多く残されているが,特に血管内皮細胞は無機亜鉛が誘導能を示さないという特殊な細胞である。この特殊性のため無機亜鉛は内皮細胞のMT誘導機構解析ツールとしては用いることはできない。そこで有機-無機ハイブリッド分子ライブラリーを活用し,有用なツールとして銅錯体Copper(II) bis(diethyldithiocarbamate)(Cu10)を見出したのが平成27年度の研究である。しかしながら,MT誘導に不可欠な転写因子MTF-1の活性化には亜鉛イオンの存在が必要である。その由来は不明であったが,平成28年度に亜鉛輸送体ZIP7がCu10による内皮細胞のMT誘導に関与していることを突き止めることに成功した。これは小胞体にプールされている亜鉛イオンがCu10によるMTF-1の活性化に関与していることを示唆するものであり,MTの新しい誘導機構を提示する結果であった。亜鉛イオンの動態を直接計測するに至っていないが,ZIP7の新機能を示唆する結果でもあり,順調な進展と言って良い。
内皮細胞のメタロチオネイン(MT)誘導の機構にはMTF-1-MRE経路およびNrf2-ARE経路の活性化だけでなく,エピジェネティックな調節も含まれている。本研究の過程で,MTF-1-MRE経路を活性化するがNrf2-ARE経路を活性化せず内皮細胞のMTを誘導しない亜鉛錯体bis(L-cysteinato)zincate(II),MTF-1-MRE経路を活性化するがNrf2-ARE経路を活性化せず,しかし内皮細胞のMTを誘導する亜鉛錯体zinc(II) bis(diethyldithiocarbamate),およびMTF-1-MRE経路とNrf2-ARE経路を共に活性化して内皮細胞のMTを誘導するCopper(II) bis(diethyldithiocarbamate)を含む内皮細胞MT誘導機構を解明するツールとなり得る有機-無機ハイブリッド分子をいくつも見出している。そこで,最終年度である平成29年度はこれらを活用して以下の2課題に取り組む。第一は,有機-無機ハイブリッド分子によって活性化されたMTF-1およびNrf2が結合するMT遺伝子のプロモーター領域に存在MREおよびAREの位置を同定することである。これによって内皮細胞におけるMT誘導に関与するMREおよびAREを明らかにする。第二に,ヒストンのアセチル化によるエピジェネティックな調節の検討である。MTF-1はp300と呼ばれるヒストンのアセチル転移酵素と複合体を形成することが報告されているので,有機-無機ハイブリッド分子による内皮細胞MT誘導へのこの複合体形成とヒストンアセチル化の関与を明らかにする。
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http://www.rs.tus.ac.jp/kaji-lab/