平成27年度および28年度の研究によって,血管内皮細胞においてはメタロチオネイン(MT)の代表的な誘導剤である無機亜鉛が誘導能を示さないこと,銅錯体Copper(II) bis(diethyldithiocarbamate)(Cu10)およびtris(pentafluorophenyl)stibane(Sb35)を分子プローブとして用いて内皮細胞のMT-1の誘導にはMTF-1-MRE経路およびNrf2-ARE経路の両方の活性化が必要であるのに対し,MT-2の誘導はMTF-1-MRE経路の活性化だけで起こること,内皮細胞MT誘導を介在するMTF-1の活性化に必要な亜鉛イオンが小胞体からZIP7を介して供給されることを明らかにした。平成29年度は,内皮細胞MTアイソフォームの転写調節機構およびMTF-1-MRE経路以外のMT誘導経路を検討した。 MTF-1/MRE経路はSb35,As35およびP35によって活性化されたが,MTアイソフォームプロモーターへのMTF-1の結合を増強したのはSb35およびAs35であった。いずれの化合物もNrf2/ARE経路を活性化し,MT-2A遺伝子より約3 kb上流にあるAREへのNrf2の結合を増加させた。一方,P35のMT-2A転写誘導におけるMTF-1/MRE経路の関与が部分的であること,Nrf2/ARE経路がMT-2A転写誘導には関与しないことが示されたことから,MTF-1やNrf2を介さない転写誘導機構の存在が示唆された。 そこで細胞増殖因子/サイトカインについて検討し,TGF-βシグナル経路が内皮細胞MTを誘導することが分かった。すなわちALK5-Smad2経路が内皮細胞MTを誘導し,MT-1Aの誘導にはSmad2と協調してSmad4およびSp1が関与すること,このうちSp1はMT-2Aの転写誘導にも関与することが示された。
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