研究実績の概要 |
アフリカミドリザル腎臓から樹立された連続継代可能な培養細胞であるVero細胞は、多様なウイルスの増殖ができる細胞であり、ワクチン細胞基材として汎用されている。我々は、Vero細胞の全ゲノム配列を初めて解読し(Osada et al 2014 DNA Res, 21, 673)、この細胞とヒトのゲノムは核酸配列レベルで90%を越える相同性があることから、ヒト培養細胞に対して開発されたゲノム編集ツールはVero細胞にもそのまま適用可能かもしれないという着想に至った。そこで、本研究課題では、ヒト感染性ウイルスの生産性が亢進した新規細胞亜株をゲノム編集法を駆使しながら取得することを目指した。 本年度は、ゲノムワイドな変異探索をするVero細胞系統の親株を設定するために主なVero細胞亜株4種類(JCRB0111, JCRB9013, 76, E6)の間で志賀毒素感受性と日本脳炎ウイルス(JEV)生産能の二つの指標において比較検討した。志賀毒素感受性においてはVero E6株が最も安定した高感受性を示し、JEV生産能を指標にした場合には、Vero E6株は他の3種類に比べて顕著に低い能力であった。さらに、HCV 高感受性を持つ亜株としてヒト肝がん由来Huh7細胞から我々が樹立したHuh7.5.1-8細胞株は(Shirasago et al 2015, Jpn J Infect Dis, 68, 81)、JEVの感染感受性も高く、Vero細胞に比べてJEV感染後の細胞致死性が高いことも見出した。これらの結果から、ヒトCRISPRライブラリーのVero細胞への適用性を志賀毒素耐性の獲得を指標にしてテストするにはVero E6株を親株とするが、JEV生産性が亢進した新規亜株を取得することを目的としてゲノムワイドな変異を探索する実験にはHuh7.5.1-8細胞を親株に設定することにした。
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