研究課題/領域番号 |
15K14997
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
前田 和哉 東京大学, 薬学研究科(研究院), 講師 (00345258)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 肝星細胞 / 活性化 / トランスポーター / 肝線維化 |
研究実績の概要 |
本研究では、肝線維化の元凶となる肝星細胞の活性化プロセスにおける細胞内外の物質輸送系の変容の理解と、そこを標的とした肝線維化抑制の戦略が有効であるかどうかを検討することを目的としている。本年度は、過去に報告のある遺伝子の網羅的発現データの中から、物質輸送系に関与するSLCトランスポーターに焦点をあて、肝星細胞が活性化したときにおいて、不活性化状態よりも遺伝子発現が大きく上昇するSLCトランスポーターを4種類見出した。これらは、肝星細胞の活性化・不活性化の分岐を担う重要な物質輸送を担っている可能性が示唆された。特に中でも一つのSLCトランスポーターは、プロスタグランジン類の輸送に関わることが示唆されており、一方で過去の報告からも、一部のプロスタグランジン類が、星細胞の活性化に関与することが示唆されることから、そのシグナル伝達強度の調節に、トランスポーターが関与している可能性が考えられた。さらに、マウスより肝星細胞を単離して初代培養するためのプロトコールを確立し、実際に培養初期の不活性化状態にある星細胞の特性であるビタミンA貯留小胞が細胞内に複数存在することを、Oil red O染色により確認することに成功した。また、ラット肝星細胞不死化細胞であるRI-T細胞や、ヒト肝星細胞株であるLX-2, LI90について非活性化状態を維持可能な条件を見出すべく、Matrigel上に培養することにより、活性化状態への移行の時間に遅れを生じさせることが出来る可能性が、培養時における細胞の形態より示唆された。現在、遺伝子的に活性状態・不活性状態をより定量的に判断できる測定系を構築中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、肝星細胞の単離および初代培養系の構築が出来たこと、不活性化細胞と活性化細胞を分ける手段として、Oil red O法を確立したこと。さらには、複数の不死化細胞株を用いて、活性化状態を遅延させるゲル培養法をある程度検討できたことを考慮すると、次の年度に向けて、明確に肝星細胞の活性化・不活性化状態を定量化できる下地が整えることが出来たという意味で問題なく進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、特にプロスタグランジン輸送とトランスポーター、そして肝星細胞の活性化・不活性化制御といったメカニズムに焦点をあて、siRNAを用いた遺伝子ノックダウンおよび遺伝子過剰発現を星細胞細胞株および初代培養で実現化させることにより、トランスポーターの重要性を明確にすると共に、既存のノックアウトマウスを用いて、肝線維化に対する影響をin vivoレベルでも明確化することを目的とした生化学的な研究を進める。また、このトランスポーターの機能阻害薬を用いることで肝星細胞による繊維化抑制が可能であるかどうかについても検討し、治療標的としてのトランスポーターの有用性についてもあわせて検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、肝星細胞の活性化状態および非活性化状態の両方において、トランスポーター類の網羅的な遺伝子発現解析を測定する予定にしていたが、過去の研究において、網羅的な遺伝子発現解析が行われているデータが公開されたことも有り、そちらのデータベースを網羅的に確認することにより候補トランスポーターを絞り込むことが出来たため、初年度の使用が当初より少なくてすんでいる。
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次年度使用額の使用計画 |
候補トランスポーターについて優先的に肝星細胞の活性化との機能連関を見ていくことで、当初計画よりも効率よく標的に近づき、より生化学的な検証実験にエフォートを割くことが出来るというメリットを生かして、遺伝子発現にパータベーションを与えることにより、肝星細胞の機能を制御できるかについて詳細な解析を進めることが出来る。さらには、トランスポーターの機能変動を引き起こす薬物のスクリーニングなどにも資金を投下することで、肝線維化を抑制する低分子薬物の候補を絞り込むことにもつながり、より本研究を発展的にすすめる上で有効に活用が可能であると考えている。
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