本研究では、肝線維化の元凶となる肝星細胞の活性化プロセスにおける細胞内外の物質輸送系の変容の理解と、そこを標的とした肝線維化抑制の戦略が有効であるかどうかを検討することを目的としている。本年度は、過去の報告に基づく遺伝子発現データベース上で肝星細胞が活性化時にmRNA発現が上昇するSLCトランスポーターのうち、プロスタグランジン類を輸送するOATP2A1に着目して、その機能制御により肝星細胞の活性化状態を変化させられるかについて検討を実施した。肝星細胞の不死化細胞株であるLX-2細胞をモデル細胞として用い、活性化の指標としてalpha-SMAおよびCOL1A1の発現を評価した。まず、TGF-beta依存的な活性化を評価するタイミングの最適化を行い、alpha-SMAはTGF-beta添加48時間後、COL1A1は24時間後が最も明確に発現上昇が観察されることを見出した。その実験条件を用いて、肝星細胞の活性化を評価した。OATP2A1の強力な阻害剤である肝機能検査薬sulfobromophthalein (BSP)を共存させた際に、TGF-beta依存的な肝星細胞の活性化がBSP濃度依存的に抑制されることを見出した。さらに、OATP2A1の阻害能の異なる薬物を共存させた際には、OATP2A1発現細胞を用いて別途見積もったプロスタグランジンE2(PGE2)の輸送に対する阻害強度に対応するように肝星細胞の活性化抑制が観察された。また、OATP2A1を標的とするsiRNAを3種合成し、肝星細胞に導入した後TGF-beta依存的な活性化を観察したところ、いずれのsiRNAにおいても、肝星細胞の活性化が抑制される傾向が観察された。従って、OATP2A1の機能発現が、肝星細胞の活性化を助長する方向に寄与している可能性が示唆された。
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