研究課題/領域番号 |
15K15002
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松原 和夫 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20127533)
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研究分担者 |
中川 貴之 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30303845)
今井 哲司 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80468579)
大村 友博 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00439035)
中川 俊作 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), その他 (50721916)
金子 周司 京都大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (60177516) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 手足症候群 / 分子標的薬 / ヒト皮膚ケラチノサイト |
研究実績の概要 |
本研究では分子標的薬による手足症候群における皮膚障害の発症メカニズムを明らかにし、治療法を展望することを目的とし、ヒト皮膚ケラチノサイト (HaCaT) を用いた検討を行った。MTT assayの結果より、細胞生存率は全ての薬物処置によって濃度依存的に減少した。またgefitinib及びerlotinibの処置によりcaspase-3の活性化が認められ、これらの薬物はリン酸化Aktも抑制することが判明した。Aktのリン酸化は細胞の生存・増殖に必要な分子として広く知られており、これらの結果から、HaCaT細胞においてgefitinib及びerlotinibはEGFR非依存的にAktのリン酸化を抑制し、最終的にcaspase-3依存的な細胞死を起こしている可能性が示唆された。 一方、sunitinib及びsorafenibではcaspase-3の活性化は認められず、Akt及びリン酸化Aktにも変化は認められなかった。しかしながら、同様の処置により、小胞体ストレス存在下で発現亢進することが知られるGRP78 mRNA の増加が認められた。これらの薬物はAktシグナルに対して影響しない可能性が考えられ、小胞体ストレスをはじめとしたcaspase-3非依存的な細胞障害または増殖抑制により、濃度依存的に細胞生存率が低下した可能性が考えられた。以上のことから、HaCaT細胞にEGFR阻害薬 (EGFRIs) またはマルチキナーゼ阻害薬 (MKIs) を処理したとき、双方とも濃度依存的に細胞生存率が低下するにもかかわらず、誘導される分子が異なることがわかり、これらの違いが臨床所見の違いと関連している可能性が示唆され、今後、更なる検証が必要であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年、小胞体ストレスは神経科学だけでなく、皮膚免疫学の研究領域においても注目されており、例えば UV照射による皮膚障害に小胞体ストレスが関与することが報告がされている (Hetz C et al., Nat Rev Neurosci, 2014, Farrukh MR et al., J Dermatol Sci, 2014)。本研究では、各種分子標的薬による皮膚細胞障害の詳細なメカニズムを検討するために、これら小胞体ストレスや細胞生存シグナルの変化に着目し研究を行うことを第一の目標として推進してきた。HaCaT細胞を用いた実験系においてEGFRIsまたはMKIsの処置により、小胞体ストレス関連分子あるいは細胞生存シグナルの発現変化を伴った著名な皮膚細胞障害が惹起されることを見出した。双方とも濃度依存的に細胞生存率が低下するにもかかわらず、誘導される分子が異なることがわかり、これらの違いが臨床所見の違いと関連している可能性が示唆された。以上の成果から、当初予定していた研究計画を概ね達成しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
継続して各種分子標的薬をHaCaT細胞に処置し、各種実験を推進する。例えば、HaCaT細胞に各種分子標的薬を処置した後に細胞あるいは培養上清を回収し、DNA array 法あるいはELISA 法に準じてどのようなシグナル伝達物質が発現亢進して遊離されているかについて評価を行う。研究代表者らは分子標的薬(特にマルチキナーゼ阻害剤)が、知覚神経を直接刺激することで神経-免疫細胞相互作用を亢進させ免疫反応を介して皮膚炎症を惹起している可能性を想定している。この仮説を検証するために、まずマウス DRG 由来神経初代培養細胞ならびにマウス皮膚由来初代樹状培養細胞(ランゲルハンス細胞、マクロファージ)の確立を試みる。各種培養細胞に分子標的薬を処置し、皮膚炎症反応を惹起しうるサイトカイン・ケモカインの発現変動やFlow cytemetory 法による樹状細胞の機能変化について解析を行う。また各種分子標的薬をマウスの腹腔内あるいは後肢足蹠皮下に反復投与し、HFSモデルマウスの確立を試みる。皮膚障害の評価は、HE染色による皮膚細胞層の脱落ならびに免疫系細胞の皮膚組織への浸潤あるいは蛍光免疫染色による細胞増殖マーカー(Ki67 および PCNAなど)の発現変動を指標に組織科学的染色法により行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では、分子標的薬誘発手足症候群の分子機構を探索するために、HaCaT細胞の実験系に加えて、ヒト3次元培養表皮モデルやDNA array など非常に高額な研究材料を用いて網羅的な検討を行うことを予定していた。しかし、そのような高額な研究系を使用するまでもなく、本質となりうる分子標的薬誘発手足症候群の分子機構を見出すに至った。そのため、H27年度に使用予定だった諸経費にあまりが出た。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度に推進していた実験系を継続的に推進し、それらに加えて動物モデルを確立し組織標本を用いてさらなる検証を行う予定である。これらの実験には高額な抗体試薬を多数購入する必要があるので、その購入費用として助成金の使用を考えている。さらに、研究成果をまとめて学会発表ならびに論文作成を積極的に行うことを考えており、それらの経費としての使用を予定している。
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