研究課題
本研究は、2つの動態特性の異なる抗酸化剤、①血中滞留型に富んだポリチオール化ヒト血清アルブミン(HSA)と②細胞透過型のグルタチオンパーサルファイドをジスルフィド結合により融合し、細胞内外で持続的に機能するハイブリッド型抗酸化アルブミンを設計すると共に、未だ有効な治療法が確立していない急性放射線症候群に伴う臓器障害治療への応用を目的として企図された。急性放射線障害に伴う臓器障害に対して有効な放射線防護剤は現時点では存在しないが、これまでの放射線防護剤の開発に関する知見を総合的に解釈すると、1)抗酸化効果と坑アポトーシス作用を有し、2)細胞内外で持続的に効果を発揮でき、3)安全性に富んだ薬剤が有望視されている。このような背景の下、本研究では、①血中滞留型に富んだポリチオールHSAと②細胞透過型のグルタチオンパーサルファイド、をジスルフィド結合により融合し、細胞内外で持続的に機能するハイブリッド型抗酸化アルブミンの作製に成功した。ハイブリッド型抗酸化アルブミンは、アルブミンと類似した立体構造を保持している上、チオール基をグルタチオンパースルフィドでマスクしているため、チオールの酸化修飾を防ぐことができることから、HSAと同等かつポリチオールHSAよりも安定性に優れていた。さらに、放射線照射により細胞障害を惹起する培養細胞系を用いた検討により、アルブミンやグルタチオンよりも高い抗酸化効果や抗アポトーシス作用を発揮することが判明した。今後、ハイブリッド型抗酸化アルブミンの体内動態特性を明らかにするとともに、放射線照射動物に対する防御効果をin vivoで実証していく必要がある。
2: おおむね順調に進展している
本年度は計画通り実施できなかった点はあるが、当初の計画の75%を遂行することが出来た。
今年度は、本研究で作製したハイブリッド型抗酸化アルブミンの物理化学的性質、長期安定性、細胞系を用いてin vitroでの放射線防護活性について明らかにしてきた。今後は、まず本年度中に検討を開始したハイブリッド型抗酸化アルブミンの体内動態の解析を継続し、健常及び放射線照射動物を用いて血中滞留性及び臓器分布に関する情報を構築する。次いで、in vivoでの放射線防護効果について検討する。すなわち、マウスを1) 未処理マウス群、2) ハイブリッド型抗酸化アルブミン投与群、3) 対照群(アルブミン、グルタチオン投与)の3群に分けて、これらに骨髄障害線量 (8Gy) と、腸障害線量 (12Gy) 、高度被爆線量(30Gy)のX線を全身に照射し、30日後の生存率を比較する。臓器障害、血液障害に対する影響を組織学的、形態学的評価、生化学、血液学的検査、免疫染色法により多角的に解析する。ここで、生存率に違いがでた場合は、防護効果の指標となる線量減少率を算出する。さらに、各臓器の切片を作製して臓器障害を病理学的に解析する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
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