細胞分化、増殖、移動等を調節する超分子複合体としての基底膜の機能を明らかにするために、基底膜の拡張やターンオーバーが亢進している発生期の唾液腺を例にとり、基底膜の動態を高精細にタイムラプス観察するシステムの構築を試みた。基底膜を標識するためのツールとして、共同研究者の関口、二木らによって開発されたEGFP標識ナイドゲン-1(EGFP-hNid1)に着目した。ナイドゲンは基底膜の各成分を連結するリンクタンパク質である。 EGFP-hNid1を器官培養系に添加するだけで、短時間(15分以内)に顎下腺上皮基底膜がライブ蛍光標識されることが示され、当初の目的の1つである基底膜ライブ観察システムを構築することができた。基底膜の標識は6時間以上に亘り安定であり、このシステムは基底膜の動態を観察できることが示された。また唾液腺のみならず、種々の器官系にも原理的に応用可能で基底膜研究に極めて有用なツールであると言える。 次にこのツールを駆使し、分枝形態形成が進行中の顎下腺上皮の基底膜の動態とその調節機構を明らかにしようとした。顎下腺上皮の器官発生では初め大きな集団をなしていた上皮遠位部の終末集塊に裂け目(クレフト)が形成され、この侵入により、上皮組織が分割される。この過程が1次、2次と進行し、やがて複雑に分岐した導管系とそれぞれの先端の終末部が形成される(分枝形態形成)。従来の申請者らの研究により、クレフトの侵入には、その部分を覆う基底膜の伸長を伴うことが判っている。分枝形態形成が進行中の顎下腺上皮では、基底膜の沈着パターンとクレフト形成に興味深い関連性を認めたものの、その詳細については今後の検討にゆだねられた。また、この様な基底膜の動的性質をもたらす基底膜分解システムを明らかにしようと試みたが、MMPと基底膜分解との強い関連を示す結果は得られなかった。
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