研究実績の概要 |
非侵襲的に神経活動をコントロールすることは神経回路の生理機構の解明にとって重要なだけではなく、神経疾患に対する長期間の治療にも応用できる可能性が展望される。近赤外光は、生体組織による吸収が低いため、生体深部の光操作に理想的である。希土類元素混合物の結晶体のランタニドナノ粒子(LNP)は、近赤外光エネルギーを吸収し、可視光を発光する性質(アップコンバージョン現象)を有している。本研究においては、LNPをドナーとして近赤外光エネルギーを可視光に変換し、アニオンチャネルロドプシンなどの光感受性タンパク質をアクセプターとして神経細胞活動を抑制するシステムの構築と最適化に成功した(Hososhima et al., 17th International Conference on Retinal Proteins, 2016; Yawo et al., 第39回日本神経科学大会, 2016; Yawo et al., 第94回日本生理学会大会, 2017)。2種類のアニオンチャネルロドプシン、GtACR1, GtACR2について、スペクトル感受性と光量感受性を比較した。その結果、GtACR1は、緑色光に対して極めて高い感受性があり、光遺伝学サイレンサーとして従来用いられてきたハロロドプシンに対し200倍、ArchTに対し400倍高感度であることが分かった。一方、LNP:LiYF4(Yb/Er 20/2)は、545 nmにおいて最大の発光を有している。したがって、545 nm付近の光に対する感度の高いGtACR1がLNP:LiYF4(Yb/Er 20/2)のアップコンバージョン・アクセプターに最適化されていることを明らかにした研究を通じて確立した基盤技術を発展させ、近赤外光アップコンバージョンによるin vivo脳機能制御の研究を展開する。
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