唾液に含まれる脂肪分解酵素・リパーゼが、口中においては消化作用として脂質分解に関与するよりは、むしろ「中性脂肪から脂肪酸を遊離させ、これが脂質味の感受性の調節に役割を演じているのではないか」との仮説を検証するために研究を継続した。 前年度までに、味溶液への大脳皮質応答をin vivoフラビン蛋白蛍光イメージング法にて解析してきた。また、食味の情報として風味形成にはニオイ情報が重要であり、ニオイと味の同時刺激によって、味覚応答が時空間的にどのような修飾を受けるのかについても解析を行った。刺激応答に関しては、ニオイに対しては梨状皮質、味刺激に対しては味覚野(島皮質内の一領域)で顕著な神経応答が記録されたが、両化学感覚に対して同時刺激を行うことで島皮質内の別領域である無顆粒島皮質において応答領域面積と応答振幅の有意な増大が現れることを確認した。すなわち、この領域(無顆粒島皮質)が「食」の情報処理・風味形成において重要な働きをしていることが示唆された。 味応答の記録を基礎データとし、脂質応答との比較を行うため味覚刺激装置で脂質を舌上に呈示して同様なイメージング計測を行った。しかし、脂質のもつ粘性の問題でチューブ内で脂溶液が遅滞してしまい、手技的に刺激提示が困難であった。この問題を克服するため、脂溶液の希釈やチューブ径を太くするなどを試みたが、最終的には手動にて刺激提示をせざるを得なかった。この刺激法において、脂溶液刺激に対する応答特性に関して、1.脂質の刺激によって味覚野で応答が記録でき、2.ヒマシ油やミネラルオイル等非食用油よりもオリーブオイルなど食用オイルの方が明瞭に応答領域・強度が増大し、3.リノール酸など脂肪酸でも同様な応答が記録されることが判明した。脂質成分はいわゆる5基本味と同様に、味覚野に応答を惹起しており、「味」として情報処理されていることが示唆された。
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