研究課題/領域番号 |
15K15044
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
岡野 ジェイムス洋尚 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (90338020)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 宇宙放射線 / 神経細胞 |
研究実績の概要 |
放射線医学総合研究所のマイクロビーム細胞照射装置 (SPICE)を活用し、経時的細胞活動計測を行った。細胞1個もしくは少数の細胞からなる神経回路を狙い撃ちして照射し観察できるSPICEを利用し、陽子線によって引き起こされる神経活動を経時的に観察した。ニューロンが信号を伝達する際、発生する活動電位により細胞の膜電位が上昇し、電位依存性カルシウムチャネルを開口し、細胞外から細胞内にカルシウムが流入する結果、細胞内カルシウム濃度が上昇する。この現象を利用し、細胞内カルシウムを可視化する蛍光色素および蛍光レポータータンパク質を細胞内に導入し顕微鏡による経時的蛍光イメージングを行うことにより、マイクロビーム照射時と非照射時のニューロンの活動を比較検討することができる。使用する細胞は、マウス大脳皮質由来一次培養ニューロンであり、主にGABAニューロンとコリン作動性ニューロンが含まれる。慈恵医大にて細胞の調整およびカルシウムイメージングの基礎実験を行い、SPICEにて同細胞の照射およびイメージングを行った。照射する粒子数は500-5000個(<2Gy)で検討し、500msec間隔で12分間タイムラプス撮影を行い、イオノマイシン添加により細胞応答性を確認した。複数の実験を行い、マイクロビーム(陽子線)を照射したニューロンの活性化と周辺ニューロンの活動低下という2つの現象が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
観察する神経細胞は、マイクロビームを透過することのできる極めて薄い特殊な素材の膜上で培養しなくてはならないが、細胞の接着があまり良くないためコーティング条件の検討が必要である。また培養に用いる薄膜の強度が十分でないため、長期に培養すると膜が歪んだり、液漏れ起こしてしまい、観察・測定が困難になる。いまのところ3~4日間の培養が限界であるが、より長い期間培養して神経細胞を成熟させた上で観察したほうが、より大きな測定値の差を得ることができると考える。長期培養に耐える薄膜素材の検討および神経細胞の成熟を促す培養条件の検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
マイクロビーム照射に用いることのできる薄膜の中から神経細胞培養に最適な膜の検討を行い安定的に培養可能な条件を検討する。またコーティングの種類、神経分化を促進する培養方法(新しい培養液、神経栄養因子の添加など)を検討する。それに引き続き、薬理学の手法を用いて陽子線・重粒子線の影響の作用点を探索する。GABAニューロンもしくはコリン作動性ニューロンの代謝型受容体の阻害剤、各種チャネル阻害剤、IP3受容体をはじめとする神経応答経路因子の阻害剤などを加えて照射による応答を観察し、実験回数を増やしてデータを取得する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は、陽子線照射のための神経細胞の培養に用いる特殊な素材の薄膜を複数種類使用し、最適条件を模索するのに時間がかかったため、培養サプリメントや各種阻害薬など高価な培養関連試薬を使用する実験の開始が遅れた。そのため次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は神経細胞培養液および分化誘導の最適条件の検討を行うと同時に、各種阻害薬など高価な培養関連試薬を使用し、実験回数を増やしてデータを取得する計画である。
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