研究課題
【目的】新規抗凝固薬である直接的トロンビン阻害薬やXa阻害薬によるサイクロフィリンA (CyPA)とその受容体Basiginの阻害作用を介した多面的作用の可能性について検討することにある。これまで我々は、CyPAに関する一連の基礎的・臨床的研究を行い、CyPAが心血管病の非常に重要な標的分子であり、Rhoキナーゼ依存性に分泌され、新たに同定したBasiginを受容体として酸化ストレスを増幅することを解明した。本申請研究では、これまで全く解明されていない、CyPA-Basigin系の血小板機能・凝固系制御機構における意義および動脈硬化不安定プラーク破綻機構における役割の解明を、新規抗凝固薬の新規薬理作用の可能性を通じて明らかにする。【進捗】Xa阻害薬や直接的トロンビン阻害薬に血管内皮や血小板におけるCyPA/Basigin阻害作用があるか否かを検討するために、当科の遺伝子改変マウス(ROCK1, ROCK2, CyPA, Basigin, PAR-1)を用いた検討を進めている。細胞外CyPAの受容体Basiginは別名Extracellular MMP inducer (EMMPRIN)と呼ばれ、MMP活性化に重要な役割を有する。従って、Rhoキナーゼ依存性に分泌されたCyPAは、Basiginを介してMMP活性化による動脈硬化プラーク破綻や大動脈瘤破裂を誘導する可能性がある。また、患者由来検体を用いた臨床的意義の確認を並行して進めている。当科に集積された冠動脈硬化標本や冠動脈疾患患者の血液検体を用いて、冠動脈プラーク破綻におけるCyPA/Basigin系の意義を詳細に検討している。
2: おおむね順調に進展している
本研究は順調に進展しており、新規抗凝固薬のACS予防効果の機序解明のための、以下のような研究が進んでいる。1.新規抗凝固薬の多面的作用の解明:新規抗凝固薬にCyPA/Basigin系抑制を介した多面的作用を有するという我々の作業仮説は全く新しい着想であり、その仮説が実証されれば、学術的意義は非常に大きく、新規抗凝固薬による新しい抗動脈硬化治療戦略が生まれる。2.新規の薬物療法の展開:血小板活性化や血栓形成による血管内皮障害の病因としてCyPA/Basigin系を介する内皮と凝固系因子の相互作用が関与している可能性が高い。この着想はこれまで想定されていない新しい原理の発展や方法論の提案であり、全く新しい薬物療法の展開が期待される。3.新規の抗動脈硬化治療戦略の創出:これまで多くの動脈硬化性疾患の解析に用いられてきたApoE欠損マウスの炎症シグナルNF-kB活性化と表現系発現の根幹にCyPAが必須分子として存在することが、最近、明らかにされた(Nature 2012)。新規抗凝固薬によるCyPA/Basigin系活性化抑制を基盤とする新規の抗動脈硬化治療戦略の創出が期待される。4.新規バイオマーカーの開発:我々は、血漿中CyPAは、ヒト冠動脈疾患や肺高血圧症の新たなバイオマーカーとして有用であることを最近報告した(Satoh K, et al. Circ J. 2013, Eur Heart J. 2014, Circ Res. 2014)。これらのバイオマーカーを用いて心血管病の発症前診断や治療効果の評価が可能になれば、循環器診療に大きく貢献することが期待される。
CyPAおよびBasiginの心血管疾患促進機構における重要性は、確認済みである。しかし、両者が血小板機能制御や凝固制御機構に関わっているとする我々の仮説は十分に証明されていない。(A)トロンビン/PAR-1のCyPA/Basigin系による活性化促進機構(動物実験)1. 前述した各種の遺伝子改変マウスを用いたトロンビンによる血管内皮PAR-1活性化機構の詳細な解明。2. Rhoキナーゼは多彩な細胞内シグナル伝達機構の要にある重要分子であり、Rhoキナーゼ阻害薬は、多くの心血管疾患の治療に有効である。その作用機序の一つにトロンビンによる血管内皮Rhoキナーゼ活性化を発端としたCyPA分泌機構とPAR-1活性化による内皮機能低下の関与が想定される。トロンビン/PAR-1/Rhoキナーゼ活性化とCyPA/Basigin系の相互作用を、in vivoにおいて検討する。3. 臓器特異的Basigin欠損マウス及び過剰発現マウスを用いることで、in vivoでのCyPA作用の制御機構の詳細な解析が可能である。特にMMP活性を制御するBasiginのPAR-1制御機構の解明により、CyPA/Basigin系による血小板活性化制御や凝固系制御機構が明らかになる。 (B)ヒト冠動脈血管内皮細胞におけるトロンビン/CyPA/Basigin系とPAR-1シグナル伝達機構 1. ヒト冠動脈血管内皮細胞を用いたトロンビンによるPAR-1活性化機構にCyPA/Basigin系がどのように関わるかを解明する(細胞実験)。2. 細胞外CyPAのヒト冠動脈血管内皮細胞へのPAR-1シグナル制御機構の解明(細胞実験)
本研究遂行にあたり、平成27年度に海外学会参加を予定していたが、国内学会のみとなったため、旅費を抑えることができた。
平成28年度は、国内および海外学会への参加を計画しており、平成27年度分と併せて執行する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 3件、 査読あり 13件、 オープンアクセス 12件、 謝辞記載あり 13件) 学会発表 (65件) (うち国際学会 50件、 招待講演 3件) 図書 (2件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
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