研究課題/領域番号 |
15K15054
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
冨田 修平 鳥取大学, 医学部, 教授 (00263898)
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研究分担者 |
松永 慎司 鳥取大学, 医学部, 助教 (30704910)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 腫瘍血管 / 癌微小環境 / PHD阻害剤 / 低酸素 |
研究実績の概要 |
腫瘍血管は、正常血管と異なり血管組織の構造的・機能的に脆弱であることが知られている。このことに起因する血流や血管透過性の変化が、酸素や栄養分の供給や薬剤の腫瘍組織への送達を低下させ、ひいては放射線治療や薬物治療に対する抵抗性獲得に寄与している。すなわち、腫瘍に対して成熟血管の形成が治療の感受性を決定する要因と考えられる。しかし、脆弱な腫瘍血管を正常血管に形質変化させる分子機構や方法について未だ詳細は不明である。本研究では、最近申請者が見出した、プロリル水酸化酵素(PHD)阻害剤による腫瘍血管の正常様血管への誘導についてその分子機序を解明して、さらに腫瘍血管の正常化を誘導する化合物のスクリーニング法を確立して新規抗腫瘍治療法開発のための研究基盤を推進する。そのために、PHD阻害剤による腫瘍血管の正常血管への誘導についてその分子機序を解明して正常化機序に必須の分子群の同定を試みる。それらの情報をもとに既存薬剤でPHD阻害剤と同様の効果を示すものを探索するシステムを構築する。また、同定された薬剤を腫瘍移植モデルに投与して腫瘍血管の正常化と腫瘍内への薬物送達の改善効果について検証する。 PHD阻害剤による腫瘍血管の正常化を介した腫瘍抑制効果のメカニズムの解明も明らかでなく、PHD阻害剤を抗癌治療に応用する研究も殆どない。従って、本研究提案は抗癌剤の腫瘍内へのより効率的な送達を可能にしてその奏功率の向上に寄与する可能性も含めた新規性の高いものである。本研究を遂行することにより、これまでの癌治療法とは異なる観点に基づき腫瘍血管形成の正常化による新規抗癌剤治療法の技術開発の基盤研究を推進することができる。また、本研究の成果は癌治療のみならずその他の血管形成不全が原因となる疾患に対しても分子標的治療法の開発に繋がることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題では、これらの結果を腫瘍領域に応用することで、PHD阻害剤による腫瘍血管の正常化の可能性を検証することにした。その結果、腫瘍移植モデルに対する抗癌剤の効果において、PHD阻害剤併用の治療群では、対照群(PHD阻害剤無しの治療群)に比較して腫瘍サイズの縮小と、腫瘍組織内の血管長の延長が観察された。また、血管の組織学的な解析より、腫瘍血管の周囲に周皮細胞の集積が観察された。ただし、腫瘍移植モデル作製に予定以上の時間がかかりそれ以降の実験過程に時間を費やし進捗がやや遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では腫瘍環境によって異常形成される腫瘍血管を正常血管に誘導するメカニズムを明らかにすることを目的として、引き続き血管形成を促進するPHD阻害剤を腫瘍移植モデル動物に投与してその腫瘍血管の形質的変化および抗腫瘍効果について解析と同時に、PHD阻害剤による腫瘍血管の正常化機構に必須の分子群を同定する。その分子に影響を与える既存化合物のスクリーニング系を構築することによりPHD阻害剤以外の腫瘍血管の正常化誘導に関わる化合物の抽出を試みる。動物モデルを用いて得られた化合物の腫瘍血管および腫瘍に対する効果を検証することにより、腫瘍血管の正常化を誘導することで抗腫瘍療法に寄与する化合物を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の実験計画の腫瘍移植モデルの作製過程において各種条件設定に時間がかかりその後の研究計画にやや遅れが生じたため、それに伴い初年度の予定計上経費額を変更し、次年度に繰り越して当初の予定していた目的に使用することにした。また、初年度の後半に申請代表者が人事異動によって他の研究機関に移ることとなり、実験室の移動と転任先での実験室の再設定に時間を費やし当初の実験計画に時間的に遅れが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越した研究経費の使途は、当初の計画通りPHD阻害剤による腫瘍血管の正常化機構に必須の分子群を同定するための消耗品に充当する予定である。
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