研究課題/領域番号 |
15K15055
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
輿水 崇鏡 自治医科大学, 医学部, 准教授 (20392491)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 受容体 / 蛍光タンパク質 / ルシフェラーゼ / 光振動エネルギー移動 |
研究実績の概要 |
オーファン受容体は、未だ生体内の活性物質が未知で機能が未解明である受容体群を指す。これらの受容体の機能を明らかにすることは、新たな治療薬の開発に繋がる。即ち、リガンドが未知のオーファン受容体には、大きな可能性が秘められている。本研究では、創薬研究において最初のチャレンジングなステップである、オーファン受容体の「新規の天然あるいは合成活性物質」を探索する。これまで、リガンドと受容体は、鍵と鍵穴の如く厳密な対応関係にあると考えられてきた。しかし申請者らは、既知のリガンドが作用する複数の受容体ファミリーに対し、ファミリー間の垣根を越えて結合が可能な、特異な性質を持つ合成ペプチドの同定に成功した。本研究では、この合成ペプチドの広い結合能を、未知のオーファン受容体に対する新規のリガンド探索に利用する。特に、高感度ハイスループット検出系を次のステップにて開発することを特徴とする。 1)解析対象オーファン受容体の抽出;最近、申請者らは広範囲の受容体に親和性を有する合成ペプチドを見出した。まず、このペプチドに親和性を有するオーファン受容体を、in silicoの検索より抽出する。この際、独自の"Pharmacological lineage analysis"(薬理学的リネージ解析)を用いる。 2)発光タンパク質融合受容体の構築と強制発現;細胞膜受容体のサブユニット相互作用を解析する際は、受容体カルボキシル基末端にGFPあるいはルシフェラーゼを付加したが、今回は異なり、新たに受容体アミノ基末端に付加する。 3)光振動エネルギー移動の検出系構築;発光タンパク受容体と蛍光ペプチドが結合した際だけに起こる光振動エネルギー移動(BRET)を、高感度で検出する測定系を確立する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「見ながら探す」リガンド探索では、受容体を発光タンパク質と融合させて、蛍光標識ペプチドとの相互作用を指標に、リード化合物や組織抽出液中からリガンドを絞り込む。本年度の研究では、受容体の活性に依存しない探索により、新たなリガンド-受容体ペアを探索した。 1)解析対象遺伝子の網羅的抽出;Gタンパク質共役型受容体遺伝子群は種を超えて保存され、そのリガンドも多くの場合高度に保存されている。そこでこの受容体遺伝子群の塩基、アミノ酸配列情報を種を超えて収集した。5千に登る配列情報から分子系統樹を作成し、独自の"Pharmacological lineage analysis"(薬理学的リネージ解析)を用いて、既知のリガンドー受容体のペアから未知のリガンドを予測する解析を進めている。実際に申請者らは、リガンドが既知であるヒト222受容体を対象とし、GnRH受容体の新規リガンド予測に成功し報告した。 2)発光タンパク質融合受容体の構築と強制発現;これまでにも申請者らは、蛍光あるいは発光タンパク質と受容体を融合させて細胞に強制発現し、機能の解析を行ってきた。細胞膜受容体のサブユニット相互作用を解析する際は、受容体カルボキシル基末端にGFPあるいはルシフェラーゼを付加したが、今回は異なり、新たに受容体アミノ基末端に付加する必要がある。V1bバゾプレッシン受容体-ルシフェラーゼ融合タンパクでは、受容体アミノ基末端に発光タンパク付加しても、受容体のシグナル伝達能が損なわれないことを確認した。さらに、検出にどの程度の受容体発現量が必要か予備実験を行なった。発光タンパク受容体と蛍光ペプチドが結合した際だけに起こる光振動エネルギー移動(BRET)を、高感度で検出する測定系の予備実験では、細胞培養ディッシュで培養したままでは検出に限界があり、細胞を一度回収するか膜分画とする必要があることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、オーファン受容体に結合する天然リガンドや化合物について、ハイスループット系を確立して受容体と結合する物質を探索する。実験系の確からしさを確認するために、受容体を強制発現する前後の細胞を比較する。また、V1b受容体をコントロールに用いる。今年度は以下について条件を確定し、組織抽出液、培養分泌細胞上清、ペプチドや化合物のライブラリー、さらには各種天然物ライブラリーを対象としてスクリーニングを実行する。 1)蛍光タンパク質の広範囲スペクトラム確認;蛍光標識によりプローブとするリガンド側の結合能が変化しないことを確認する。そのため、広範囲の受容体に親和性を示すことが判明した合成ペプチドの性質が、蛍光標識の有無により変化するか、受容体結合実験や薬理実験で検証する。 2)発光タンパク融合受容体と蛍光リガンドの相互作用検出;以上の各段階を確認した後、受容体-発光タンパク質と蛍光リガンドの相互作用を検出する。この系が機能していることを、まずV1b受容体-発光タンパク質と蛍光標識バゾプレッシンとの間で確認し、続いてオーファン受容体に適用する。検出系のスケールを可能な限り小さくマルチウエルプレートで測定を効率化する。以上より、検索対象とするオーファン受容体に対し、リガンドを探索する高感度アッセイを実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
解析対象遺伝子の抽出において、解析対象を種を超えて広げたが、無料の公共データベースを検索対象とし、オープンソースプログラムを使用したコンピュータ作業の自動化に成功した。よって人件費、謝金を抑制することに成功した。
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次年度使用額の使用計画 |
実際に実験対象とする抽出遺伝子が増し、スクリーニングの規模が大きくなることが予想される。そのため、繰越した予算は細胞培養試薬と、スクリーニングの消耗品に使用する。
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