研究課題
Arf6蛋白質は乳癌を始めとする様々な悪性癌に高発現し、浸潤転移を促進する。ゲノム科学分野では、遺伝子の発現レベル(i.e., mRNAレベル)が議論の根幹の一つであるが、多くのタンパク質の発現レベルはそのmRNAレベルによって規定されているのではないことも周知されている。その一つとしてmRNA翻訳制御がある。翻訳制御には多くの因子が関与するが、本制御に関わる情報はmRNA 5'-untranslated region (UTR) 一次構造に組み込まれている。5'-UTRを介した翻訳制御として、mTOR-elF4E軸が有名であり盛んに研究されてきた。我々は、悪性癌に高発現するArf6タンパク質レベルはそのmRNA量とは相関しないこと、また、Arf6タンパク質レベルはrapamysinの影響を受けず、従って、mTOR-elF4Eによる制御は受けないこと、 続いて、Arf6 mRNA 5'-UTRに典型的なelF4A依存的G-quadruplex構造が存在する事を見いだした。これまでに、1)elF4A活性阻害剤Silvestrolによって乳癌など幾つかの癌細胞を処理した際、Arf6蛋白質発現量が著しく低下し、浸潤活性も阻害されること、2)乳癌などにおけるArf6タンパク質異常発現の原因として、elF4A結合性阻害タンパク質PDCD4の発現が低下していること、3)PDCD4を強制発現させることによって、Arf6のタンパク質発現レベルが低下することを明らかにした。現在、多くの悪性癌では何故、PDCD4の発現が下がっているのかを解析している。
2: おおむね順調に進展している
予想通り、PDCD4の発現低下がeIF4Aを介し、Arf6 mRNAのtranslation効率を引き上げていることを明らかにすることができた。
何故、PDCD4発現が多くの癌で低下しているのかの分子的機序に関して研究を進めている。PDCD4遺伝子のpromoter領域には予想以上に多くの異なった転写因子の結合部位が見つかる。現在、reporter assayを組みin vitroでの解析を進めるとともに、TCGAなどのデータベースから、PDCD4 mRNA levelと強く正に相関する転写因子(群)の探索を行っている。
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http://www.hucc.hokudai.ac.jp/~g21001/