研究課題/領域番号 |
15K15059
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
明石 英雄 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10431785)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 多能性 / スプライシング |
研究実績の概要 |
申請者は、多能性維持因子として一つの遺伝子領域(以下、「P因子」と呼ぶ)を同定することに成功し、さらに、P因子のエキソン4、6、又は7をノックダウン(KD)することにより、細胞の形態が神経、肝、又は骨格筋細胞様にそれぞれ変化することを既に明らかにしている。本年度は、P因子KDによる細胞の形態変化が、どのような機構により誘導されているのかを明らかにする目的で、P因子KD前後の遺伝子発現及びスプライシングフォームを網羅的に解析し、それらの経時的変化を調べた。 その結果、細胞には、3胚葉に属する遺伝子がもともと多数発現していることが明らかになった。これは、細胞の多能性は、未分化および分化を規定する特異的な因子によって制御されているというよりは、全ての胚葉に属する遺伝子が発現している結果、どの胚葉にも分化しないというpassiveな形で制御されている可能性を示唆するものである。また、Ex4-KD細胞においては、中胚葉および内胚葉に属する遺伝子の発現が減少し、外胚葉に属する遺伝子、中でも、神経細胞特異的な遺伝子発現が上昇することが明らかとなった。一方、Ex6-KD及びEx7-KD細胞においては、肝細胞や骨格筋細胞のマーカーの顕著な発現上昇は認められなかった。さらに、P因子KD前後で多数の遺伝子のスプライシングフォームが変化しているという意外な結果が得られた。特に、Ex4-KD細胞では、MAP2Cのような神経細胞特異的なスプライシング産物が新規に発現してくることが明らかになった。以上の結果は、細胞にはもともと神経関連遺伝子のいくつかが発現しているが、それらは機能しないフォームであるために神経への分化が誘導されることはないが、P因子KDによって、それらのフォームが機能型に変化することにより神経細胞への分化が開始するという、新たな多能性制御モデルが存在する可能性を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は平成27年度から29年度までの3年継続助成で申請しているものであり、当初の予定では、申請者は東北大学・医学系研究科に所属して3年間の本研究を行う予定であった。しかし、今年度の11月の時点で、平成28年度から申請者が東北大学から秋田大学・医学部に移ることが決まり、所属研究室の専門分野が異なるため、研究環境が全く異なる状況になることになった。このことは申請当初の計画では予定していなかったことである。 本研究の継続のために総合的に考慮した上で、秋田大学において分子生物学的実験及び細胞培養実験を行う環境を整える必要が生じたことなどから、今年度の予算消化を抑え、来年度からの研究環境構築に使用する必要があると判断した。以上の理由により、今年度は予定していた実験計画のうち、次年度以降に行う予定であったバイオインフォマティクス解析を優先して行うことにより、研究進捗の遅延を最小とするようにした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に行った解析結果から、本研究で示唆される多能性の制御機構は普遍的なものであることが示唆されている。このことを受け、当初は特定の細胞に関して解析を行っていたが、今後は様々な細胞種においてもP因子およびスプライシングによる多能性制御機構を検討するとともに、現在の所属研究室で強い分野である組織学的・発生学的な観点を取り入れた形で、研究を推進していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の11月に、東北大学から秋田大学に所属が変わることになったが、このことは申請時には想定していなかったことである。このことから、本研究を遂行するための研究環境を秋田大学の現所属研究室で新たに整える必要があり、当該年度の支出を抑えるために、次年度以降に予定していたバイオインフォマティクス解析を優先して進めることによって、当初予定していた物品費による支出を抑制した。
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次年度使用額の使用計画 |
当該助成金、および翌年度分として請求した助成金は、現所属研究室で、効率的に分子生物学的実験、細胞生物学的実験、動物実験等を遂行するための研究環境を整えるために使用する。
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