研究実績の概要 |
蛋白質シトルリン化はCa2+依存性酵素であるpeptidylarginine deimidase (PAD)によって担われる。最近、遺伝子発現のエピジェネティック制御や癌化、慢性関節リウマチや多発性硬化症の発症等にこの翻訳後修飾が重要な役割を果たしていることが相次いで発見された。しかし、医学・生物学的重要性にもかかわらず、PAD自身の制御機構を含めて、蛋白質シトルリン化の制御機構はほとんど解明されていない。PADはCa2+依存性酵素と位置づけられているが、その活性化のために1 mM以上の非生理的に高濃度のCa2+を要し、何らかの制御因子の存在が想定される。また、遊離シトルリンをアルギニンに変換する酵素は存在するが、ペプチド中のシトルリンをアルギニンに変換する酵素は見いだされていない。本研究ではこれらの因子を探索・同定して蛋白質シトルリン化の制御機構を解明し、その生体機能調節における役割を明らかにすることを目的とし、研究を進めた。我々は PAD4 のヒストン H3 シトルリン化を指標としてその抑制因子を同定し inhibitor of PAD4-1(iPAD1)と名付けた。iPAD1 とは異なる抑制活性 iPAD2 及び促進活性 stimulator of PAD4 (sPAD1)を確認しており、本研究で分子同定し、現在、生化学的、医学・生物学的解析を進めている。いくつかのシトルリン化蛋白質を bait にアフィニテ ィ法で結合蛋白質を同定し、その生物学的意義を解析中である。このように研究は順調に進んでいる。さらに、2015年度には、蛋白質シトルリン化か大きく影響する好中球NETs形成をプロスタグランジンE2が抑制するという知見を報告した(K. Shishikura, T. Horiuchi, N. Sakata, D-A Trinh, R. Shirakawa, T. Kimura, Y. Asada, H. Horiuchi* (2016) Prostaglandin E2 inhibits neutrophil extracellular trap formation through production of cyclic AMP. Br J Pharmacol, 173, 319-331)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度には、2015年度には、蛋白質シトルリン化が大きく影響する好中球NETs形成をプロスタグランジンE2が抑制するという知見を論文報告した(K. Shishikura, T. Horiuchi, N. Sakata, D-A Trinh, R. Shirakawa, T. Kimura, Y. Asada, H. Horiuchi* (2016) Prostaglandin E2 inhibits neutrophil extracellular trap formation through production of cyclic AMP. Br J Pharmacol, 173, 319-331)。 さらに、iPAD1の解析も進み、シトルリン化蛋白質に特異的に親和性の増す蛋白質も同定することができた。以上より、当初の計画以上に研究が進展したと考えている。
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