研究課題
「地球上のすべての生き物の中には、すべての元素が含まれている」という「拡張元素普存説」が約10年前に提唱された。この説をもとに「生体内に(微量)存在する個々の金属元素が、積極的に個体の生命活動を調節しているのではないか? またその調節機構の破綻が疾患の原因になり得るのではないか?」という新しい発想を抱いた。しかし、当時の元素の網羅的計測技術(感度や精度)が不十分だったため、その学説の実験的証明が進まなかった。その後、その学説を証明するために必要な「元素計測技術」が飛躍的に進歩してきた。細胞の中のすべての金属元素の含量を測定した報告はこれまでに全くない。そこで我々は癌細胞や癌組織中の微量金属元素を網羅的に定量する測定系をICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)で立ち上げることを立案した。現状保有するICP-MS機器を生命科学で扱う検体(細胞や生体組織検体)用に改良し、我々が独自に樹立したスキルス胃癌の腹膜転移細胞株内の元素の測定に挑むことを目的とする。今年度の実験において、ICP-MSに掛ける検体の前処理法のバリデーションについて、継続して取り組んだ。RIPAバッファーによる細胞抽出液について、塩酸処理やトリクロル酢酸処理(脱タンパク質処理)を検討し、どちらの前処理法でも、タンパク質と結合している金属を解離させることができた。確立した測定系を用いて、3種の細胞(HEK293, MDA-MB-231, スキルス胃癌腹膜転移株)の抽出液を測定し、すべての細胞で、ほぼすべての元素が測定出来た。測定値のバラツキはとても小さく、また細胞ごとに、その含有量がある程度定まっていることが分かった。現在、測定値の標準化の仕方について、検討しているところである。
2: おおむね順調に進展している
本年度(平成28年度)において、おおよそ研究実施計画書に記載した実験をひとつずつ実施した。
平成29年度において、我々が樹立したスキルス胃癌の細胞株を測定材料としたICP-MS測定を継続して実施し、データを積み重ねていく予定である。
実験のために購入を予定していた、原子吸光用金属溶液が安く購入できたため、未使用額が生じた。
細胞培養実験消耗品や実験消耗品一般試薬が不足しているので、その購入に充てる計画である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (1件)
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