研究課題
「地球上のすべての生き物の中には、すべての元素が含まれている」という「拡張元素普存説」が約10年前に提唱された。この説をもとに「生体内に(微量)存在する個々の金属元素が、積極的に個体の生命活動を調節しているのではないか? またその調節機構の破綻が疾患の原因になり得るのではないか?」という新しい発想を抱いた。しかし、当時の元素の網羅的計測技術(感度や精度)が不十分だったため、その学説の実験的証明が進まなかった。その後、その学説を証明するために必要な「元素計測技術」が飛躍的に進歩してきた。細胞の中のすべての金属元素の含量を測定した報告はこれまでに全くない。そこで我々は癌細胞や癌組織中の微量金属元素を網羅的に定量する測定系をICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)で立ち上げることを立案した。現状保有するICP-MS機器を生命科学で扱う検体(細胞や生体組織検体)用に改良し、我々が独自に樹立したスキルス胃癌の腹膜転移細胞株内の元素の測定に挑むことを目的とする。前年度までの検討によって、ICP-MSに掛ける細胞可溶液の前処理法などの方法論を標準化し、細胞可溶液中の金属元素の含量を網羅的に測定する技術を成功裡に確立した。平成29年度の実験において、確立した測定系を用いて、スキルス胃癌の腹膜転移細胞株の抽出液を網羅的の測定し、以下の結果を得た。スキルス胃癌の腹膜転移株では、ルビジウム(原子番号37;質量数85)の含量が、その対応する親株に比して有意に高いことが分かった。ルビジウムの細胞内濃度は、カリウム濃度と類似した傾向にあった。癌の腹膜転移とルビジウム濃度との関連性について、今後の研究課題として取り組んでいくこととした。以上、本課題において、細胞中の金属元素の含量を網羅的に測定する方法論を確立すると共に、癌転移において有意に変動する金属元素群を特定する成果を得た。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件)
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