体内に取り込まれたエネルギーを熱として放散し、エネルギー消費に寄与するのが褐色脂肪組織である。褐色脂肪細胞におけるエネルギー産生及び放散の仕組みが解明できれば糖尿病や心筋梗塞をはじめとした様々な代謝性疾患の要因である肥満に対する新たな治療戦略につながる。本研究課題では、褐色脂肪細胞の分化・成熟および機能制御機構について、小胞体に収斂するシグナル経路を中心に解析し、生体におけるエネルギー出納の恒常性維持機構の解明を目指している。前年度の解析から、褐色脂肪細胞がUCP1の転写誘導を介して熱産生を行う際にPKA依存的に活性化したIRE1-XBP1経路が必要であることが明らかとなった。本年度は、IRE1-XBP1経路によるUCP1の転写亢進の詳細な分子機構の解明とIRE1-XBP1経路の生体における活性化を検討した。スプライスドフォームXBP1は転写因子として機能する。UCP1遺伝子のプロモーター領域に複数のXBP1結合配列を発見した。しかし、UCP1の転写誘導はXBP1単独では行われず、β3アドレナリン受容体下流で誘導される分子とヘテロダイマーを形成することが必要であると示唆された。また、XBP1タンパク質が核内へ移行するためには、PKA下流分子であるp38 MAPKによるリン酸化が必要であることもわかった。生体内の褐色脂肪細胞は、生体が寒冷環境に曝されると活性化する。野生型マウスを4℃環境に24時間曝すと、UCP1の発現と同時にIRE1-XBP1経路の活性化が確認され、生体内においてもIRE1-XBP1経路がUCP1の転写誘導に重要であることが明らかとなった。
|