研究実績の概要 |
本研究課題は、神経細胞遊走(移動)障害による脳層構造の形成異常を特徴とした神経疾患に対する汎用な治療薬開発を目的とした。近年、統合失調症(schizophrenia)、自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder: ASD)、うつ病、注意欠如・多動性障(attention deficit hyperactivity disorder, ADHD)、失読症(dyslexia)などの発達障害や精神・神経疾患に於いて、神経細胞移動や軸索伸長の異常との関連が指摘されている。神経細胞遊走障害を伴う精神・神経疾患の原因は、遺伝性、非遺伝性にかかわらず様々な要因が挙げられるが、これらの疾患の多くの症状には、相互に類似性あるいは関連性がみられることから、疾患発症に至る共通の分子制御メカニズムが示唆される。一方で、精神・神経疾患は、発達障害と疾患発症に共通する基盤をもつことから、遺伝的素因、環境要因などの胎児期リスクに対応することが臨床的にも注目されている。本研究課題は、これまでの滑脳症に於ける私たちの研究経緯を踏まえ、精神・神経疾患に対して、神経細胞移動や軸索伸長の異常の観点からの創薬探索のターゲットを見出し、汎用性の高い治療薬あるいは診断薬の開発を目指した。 本研究課題期間内に於いては、私たちが技術開発した「インビトロ神経細胞遊走障害を伴う疾患の判別方法と有効な治療薬スクリーニングへの応用(特許出願中)」を用いて、臨床的には、精神発達遅滞、てんかんなどを特徴的な症状とし、神経細胞遊走障害症の一つである滑脳症の疾患モデル(Lis1遺伝子ヘテロ欠損マウス)由来の神経細胞で見られる遊走活性の低下を回復・改善させることを指標にして低分子化合物の薬剤一次スクリーニングを行った。その結果、カルパイン阻害活性をもつ低分子化合物を候補化合物とすることができた。
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