低分子の光感受性物質を用い、興奮性細胞である心筋細胞の拍動を、光照射によって制御する研究を行なった。アゾベンゼンは、照射する光の波長に依存して構造を変え、シス型とトランス型の構造を可逆的に変化させることができる。本研究においては、そのアゾベンゼンに電荷を持たせることで水溶性を大きくし、生細胞との相互作用を大きくした上で、細胞構造変化を細胞機能の変化へと直結させる事を試みた。この結果、その物質が細胞と大きく相互作用することを確認し、光による細胞機能の変化について視覚的に確認することができた。 実験には、主に、自発的に拍動を示すラットの心筋細胞を用いた。研究の結果、器官としての「心臓の活動」の制御にはまだまだ多くの課題がある事が明らかになったものの、細胞レベルや組織レベルにおいては、照射光によるアゾベンゼンの可逆的な構造変化に対応した細胞機能の変化がみられた。条件を整えることで、より多様な光制御系の構築が可能であると考えられる。細胞機能の光応答の理由としては、細胞膜の物性、特に、膜構造の変化が大きな要因となっていることが示唆された。 また、心筋細胞以外の、節足動物や軟体動物の細胞などの何種類かの細胞を用いた場合でも、例えば細胞の動きに大きな変化がみられるといった光制御系の構築が可能であることを確認した。 本研究は、細胞サイズから細胞集団に亘る様々なレベルにおいて、光照射という、非接触で非侵襲な方法により、細胞機能の制御が可能であることを示したものである。この研究によって得られた知見を基にして研究を発展されることにより、マイクロアクチュエーターの動力源や、薬剤放出性カプセルの構築など、様々な面への応用が期待できる。
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