研究課題/領域番号 |
15K15075
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
大澤 郁朗 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究副部長 (30343586)
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研究分担者 |
本田 修二 早稲田大学, 理工学術院総合研究所(理工学研究所), その他(招聘研究員) (40100127)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / サブミトコンドリア構造 / クリステ / 超解像顕微鏡 / リアルタイムイメージング / 膜電位 / 呼吸鎖複合体 / MICOS |
研究実績の概要 |
ミトコンドリアは老化と寿命制御の中核的オルガネラである。エネルギー産生の中心である呼吸鎖はクリステ膜上に存在するが、クリステの構造は光学限界以下で、その動的変化を生細胞で観察することができなかった。この為、クリステ構造変化とミトコンドリア機能との相関は全く不明である。近年、超微細構造の観察が可能な分解能50 nm以下のG-STED(Time-gated stimulated emission depletion)顕微鏡が開発された。そこで、本研究では超解像レーザー顕微鏡で生細胞におけるクリステ構造の可視化に挑戦し、クリステ構造変化とエネルギー産生を主体とするミトコンドリア機能との相関を明らかにする。 現在までに超解像STED顕微鏡を用いて、数10 nmの解像度で生きたミトコンドリアの内部構造(内膜クリステ)を観察する手法を確立した。これにより、核様体、外膜、マトリックスなどと内膜クリステを区別して観察することが可能になり、呼吸鎖複合体などのATP産生に関与する分子と内膜クリステとの位置関係をライブで観察可能となった。また、内膜クリステが高速に変化していることが明らかとなり、その生物学的意義の解明を進めている。さらに呼吸鎖スーパー・コンプレックスの可視化も検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
A549ヒト肺がん細胞をミトコンドリア膜電位特異的蛍光色素(TMRM)で染色後、G-STED顕微鏡で画像取得し、deconvolutionソフトによりノイズを除去した。必要に応じてマトリックス局在YFPや外膜特異的タンパク、各呼吸鎖複合体サブユニットなどのAcGFP融合タンパク発現ベクターで形質転換したA549細胞を用いた。また、MICOS構成タンパクCHCHD3はsiRNAでknockdownした。 その結果、G-STED顕微鏡によってミトコンドリア内部におよそ90 nm幅のTMRM陽性となるひだ状構造が観察された。その3D画像は電顕によって観察されたクリステ構造に類似していた。このとき、マトリックス局在YFPはひだ状構造の間に入り込み、外膜特異的タンパクはひだ状構造の外周を囲んでいた。また、CHCHD3の発現抑制により粒化したミトコンドリアでは、ひだ状構造の弛緩が認められた。これらの観察結果は、TMRM陽性ひだ状構造が内膜クリステであることを示している。さらに呼吸鎖複合体IからVの各サブユニットはひだ状構造の近傍にあるが完全には共局在しなかった。これはAcGFPでマークした各呼吸鎖サブユニットが、内膜貫通部分ではなく、外側のマトリックスや膜間腔内に存在する為と考えられる。また、経時的解析から内膜クリステは高速(サブ秒)に変形していることが確認された。 今回の結果は、従来は主にミトコンドリアの外観から機能と構造の変化が議論されてきたが、今後は内部構造との機能相関が解析可能であることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
内膜クリステの高速変化(サブ秒)に関する生物学的意義の解明は老化プロセスを含めた生命の本質に迫る可能性があるオリジナリティーの高い研究である。さらに生細胞での電子伝達系複合体スーパー・コンプレックスの可視化とそのミトコンドリア機能との相関を解析する研究も同様に高いオリジナリティーがある。現在、この2つの研究が進行中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定を上回り、研究が進展した為。
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次年度使用額の使用計画 |
計画内で発展させた研究テーマに研究費を投入する。
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