ビタミンB6はpyridoxal (PL)、pyridoxamine (PM)、pyridoxine (PN) およびそれらのリン酸化体からなる。ビタミンB6は抗炎症作用を持つと考えられているが、そのメカニズムについては十分解明されていない。我々はビタミンB6が炎症性サイトカインIL-1βの産生を抑制することを発見した。そこで、このビタミンB6の新しい抗炎症作用の分子機構の解明とIL-1βが関与する疾患の予防法の開発に向けた基礎研究を目的に研究を行い、以下の成果を得た。 1. IL-1βの産生過程はNF-κBによるproIL-1βの発現とカスパーゼ1によるproIL-1βの成熟の二段階に分けられる。カスパーゼ1の活性化はNLRP3などがカスパーゼ1とインフラマソームと呼ばれる複合体が形成することで誘導される。本研究では主にマウス腹腔マクロファージをLPSで刺激することでNF-κBを活性化し、さらにATP、ニゲリシン、尿酸ナトリウム結晶などでNLRP3を活性化することでIL-1βの産生を誘導した。この実験系でLPS刺激前にPLあるいはpyridoxal phosphate (PLP)で細胞を処理すると、IL-1βの産生が著しく抑制された。PMやPNにはそのような効果がなかった。また、PLとPLPはLPS刺激によるTak1やIKKのリン酸化など、NF-κB 活性化経路を阻害した。 2. 予めLPSで活性化したマクロファージをPLやPLPで処理し、その後NLRP3活性化刺激を加えた場合にもIL-1βの産生が抑制された。また、PLやPLPはproIL-1βの産生は抑制せず、カスパーゼ1の成熟を阻害した。この実験系でもPMやPNは有意な抑制効果を示さなかった。 3. PLまたはPLP(20㎎/kg)をマウス腹腔に投与し、2時間後に致死量のLPSを投与したところ、PLやPLPを投与しなかったマウスに比べ、生存率が有意に改善された。 以上より、PLとPLPはNF-κBとNLRPインフラマソームの活性化経路を共に抑制することが判明した。また、PLやPLPは炎症性疾患の予防に有効である可能性が示唆された。
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