研究課題/領域番号 |
15K15080
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
古川 鋼一 中部大学, 生命健康科学部, 教授 (80211530)
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研究分担者 |
山内 祥生 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任准教授 (00444878)
橋本 登 名古屋大学, 医学系研究科, 研究員 (90712365)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | シグレック / 糖脂質 / シグナル |
研究実績の概要 |
癌細胞膜表面には、シアル酸を含む癌関連糖鎖が発現し、癌細胞の悪性形質に関与することが示されてきた。一方、自然免疫系細胞であるNKや単球・マクロファージの表面には、シグレック7あるいは9という名の、シアル酸認識受容体(レクチン)が発現しており、これらの相互作用の意義の解明と治療応用を目指してきた。 シアル酸化糖鎖と認識分子との相互作用に基づく、双方向のシグナル解明のため、シグレックが認識する糖鎖構造と、そのcareer分子の同定を試みて、シグレック7に関しては、GD3などのジシアリル型糖脂質とジシアル化またはトリシアル化糖鎖を結合するタンパク質が強く認識されることを明らかにした。また、NK細胞においては、シグレック7を介するシグナルがNK活性(大腸癌細胞に対する細胞傷害活性)を抑制することを明らかにした。さらに、シグレック7が細胞膜に発現するガングリオシドGD3を認識する場合に、脂質部位セラミドの化学構造が結合性に大きく関わることが明らかになった。即ち、スフィンゴシン4位のCが水酸化を受けているGD3はシグレック7に認識されず、C4水酸化に働くDES2遺伝子のノックアウト細胞で、結合性が回復することが明らかになった。さらに、セラミドを構成する脂肪酸においても、C2位の水酸化が正常大腸上皮細胞で大部分に見られることが分かっているが、この水酸化の除去によっても、シグレック7の結合性が亢進することが分かった。DES2、FA2HのダブルKO細胞では、さらに強いシグレック7の結合が認められた。 水酸基を1個~2個有するセラミド含有糖脂質のクラスター形成、あるいはミクロドメインへの局在性を、水酸基を持たない糖脂質と比較すると、raftへのクラスター形成・局在性が乏しいという結果が得られており、シグレックとの結合性に分子クラスターの形成能が関与することが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、自然免疫細胞上のシアル酸認識レクチンの認識糖鎖構造と、相互作用に基づく双方向のシグナル解析など、細胞レベルでの新しい知見は十分に取得されており、当初の目標をおおむね達成しつつあるが、おもに三つの面において不十分性を残している。 1点目は、自然免疫系細胞の膜表面に発現するシグレックと、癌細胞表面に発現するシアル化糖鎖糖鎖との相互作用をブロックすることで、自然免疫細胞の抗癌活性を回復させ、また癌細胞内に伝達される活性化シグナルを抑制することで、合わせて癌の免疫治療につなげる点である。そのために、シグレックの糖鎖認識ドメインであるV-set ドメインのリコンビナントタンパク質の作成を行い、その抗癌作用を、in vitro の実験システムで証明することである。 第2点は、シグレックと癌関連シアル化糖鎖との反応によって、癌細胞に導入される悪性形質の解析である。単球上のシグレック9が癌細胞上のジシアル化糖鎖に結合すると、カルパインの活性化が惹起されて、癌細胞内のシグナル分子の分解が誘導され、結果的に癌細胞の運動能を増強することを報告したが、カルパインの活性化メカニズムは不明のままである。 第3点目は、1点目で述べた、シグレックとシアル化糖鎖との相互作用の遮断が、in vivoの癌抑制に適用可能かどうかを、ヒトのシグレックのtransgenic マウスを用いて証明することである。そのための遺伝子変異マウスを作成中であるが、まだ順調に進むには至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
残された予算の範囲で、進捗状況に述べた課題につき、最大限の試みを行って、本研究の成果を癌治療の応用・開発に繋げる道筋をつけたいと考える。 シグレック7の細胞外ドメインを培養細胞で発現させて、その癌細胞に対する作用を観察しつつあるので、そのタンパク質の縮小化を進めて、in vivoの実験に供しうるように展開をはかる。 ヒト シグレックの発現マウスラインを樹立することで、なんとか、in vivo におけるシグレック7と認識糖鎖の結合遮断実験系を確立して、未来の計画に繋げる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた、シグレック7/9とシアル酸含有糖鎖との相互作用に基づく、癌細胞内でのシグナルタンパク質分解のメカニズム、シグレックの糖鎖認識ドメインのリコンビナントタンパク質の発現と細胞への効果の検討、および、ヒトシグレック7/9の発現マウスの樹立等の課題が達成しきれていない。 その要因として、基礎実験に手間取り、実験自身が順調に進展しなかったことと、中心となる研究者の確保が困難であったことが挙げられる。これらの点を克服して、次年度に目標の達成を目指すため、次年度使用額が生じることになった。
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次年度使用額の使用計画 |
シグレック7/9とシアル酸含有糖鎖との相互作用に基づく、癌細胞内でのシグナルタンパク質分解メカニズム、シグレックの糖鎖認識ドメインのリコンビナントタンパク質の発現と細胞への効果の検討、ヒトシグレック7/9の発現マウスの樹立等の研究推進のために、必要な培養試薬、生化学実験試薬、抗体類、マウス飼育代等の消耗品の購入および研究補助員の謝金にあてる。
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