研究実績の概要 |
最終年度においては以下の研究成果を得た。 神経変性疾患においては個々の疾患に特徴的な神経細胞が選択的な脆弱性を示し異常タンパク質蓄積による神経細胞死が時間経過とともに確実に伝播・進行する。筋萎縮性側索硬化症 (amyotrophic lateral sclerosis; ALS)においては運動ニューロン(MN)が選択的に障害を受けるが全てのMNが障害を受けるのではなく、速筋支配のMN(FF-MN)がALSに対する脆弱性を示す一方、遅筋支配のMN(S-MN)は疾病の最終段階まで抵抗性を示すものが多い。これはすなわちFF-MNとFR/S-MNの細胞内因的な特異性の違いにALSに対する脆弱性および抵抗性の謎を解く鍵があることを示唆する。最終年度では、生後発達期においてFF-MNとしての細胞特異性を賦与することが知られているDlk1に着目し、ALSにおいてはDlk1の働きによりALS脆弱性がFF-MN選択的に獲得されているのではないかと仮定し、RNA結合タンパク質であるTdp-43(Arai et al. 2006, Neumann et al., 2006)の細胞質での異常蓄積を指標に培養細胞系を用いて、果たしてDlk1およびDlk1を介したNotchシグナル抑制によりALS脆弱性が獲得されるかどうかを解析した。当初の予想に反してDlk1およびDlk1を介したNotchシグナル抑制ではなくむしろNotchシグナル促進がALS脆弱性を賦与することが明らかとなった。過去の研究においてNotchシグナルはALS脆弱性の下流因子として位置づけられていることを考え合わせると、以上の結果はALSにおける選択的な脆弱性および伝播性を説明しうる新たな仮説を提唱するものとなった。しかしながらこれが果たして実際の人におけるALSの病態の一端でも説明しうるものかどうかは今後の厳しい検証が必要と考える。
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